地球はどうしてできたのか

地球はどうしてできたのか

著者 吉田晶樹(よしだ・まさき)

マントル対流と超大陸の謎

まえがき

 2011年に東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震をきっかけに、地震の発生メカニズムや、南海トラフ地震など今後起こりうる巨大地震の可能性など、地震に関連する報道が以前にも増してテレビや新聞でよく目にするようになりました。
 みなさんは、「大陸が移動する」「プレートが動く」と聞いてどのような想像をするでしょうか?
 きっと、私たち人間が住む大地が長い時間をかけてゆっくりと動く雄大な地球の営みを想像するのではないでしょうか。一方で、そのようなダイナミックな地球の営みは、ときに、地震や火山噴火を引き起こし、私たちの生活や生命を脅かします。
 東北地方太平洋沖地震とそれに続く津波により、私たちは地球の内部の非情ともいえるダイナミックな活動をまざまざと見せつけられました。地球上に分布する大陸が移動しているという事実は、私たちの人生の時間スケールでは実感することはできませんが、プレート運動に起因する地震活動は地球の内部が現在もなお活発に動いていることを実感させられます。
 固い岩石でできた層が多くを占める地球内部の諸現象を扱う研究分野を「固体地球科学」といいます。私の専門分野は、固体地球科学の中で、特に「地球惑星内部物理学」、あるいは「固体地球惑星物理学」と呼ばれる学問です。この学問は、物理学のみならず、数学、化学、生物学、地質学などあらゆる自然科学の知識をフル活用して、地球や惑星の内部や表層で起こっている物理現象や地質現象(例えば、プレートの生成や沈み込み、大陸移動、造山運動、地震・火山噴火、マントル対流など)を、さまざまな研究手法を用いて解明する学問です。とりわけ、私の得意分野は、コンピューター・シミュレーションの手法を用いて、地球内部でどのようなことが起こっているか、また、地球内部の運動と地球表層の運動がどのような相互作用をしているかを研究することです。
 本書では、「大陸はなぜ移動するのか」という疑問から解きほぐし、地球の内部から表層までのダイナミックな動きを解説していきます。
「大陸移動」や「プレートテクトニクス」という言葉は、地震の多い日本では、テレビや新聞などでもよく目にするでしょう。中学や高校の教科書でも必ず紹介されていて、一般の方にも比較的親しみのある地球科学現象であると思います。
 また、私は、研究の成果発表とアウトリーチ活動の目的で、個人のウェブページを開設しています。アクセス解析によって、さまざまな検索ワードで私のページに辿り着いていることが分かります。その中でも圧倒的に多い検索ワードは「大陸移動」です。
 このような状況で大陸移動を知りたいと思う方が多いのは、大陸移動という言葉になじみがありつつも、どこかでさまざまな疑問を持っていて、なぜだろうと思っているからではないでしょうか。
 たとえば、「地震がなぜ起きるのか」という問い。これに、プレートが動くからだと答えられる人は多いと思いますが、もう一歩進んでなぜプレートが動くの? ときかれたら答えるのはなかなか難しいのではないでしょうか。
 実は、プレートがなぜ動くのか、その原動力については長い間あまりわかっていませんでした。大陸移動説を提唱したウェゲナーにも大きな問題として残っていました。
 その答えを知るには、地球のさらに内部を探る必要があります。「なぜ動くのか」の大きなカギを握るのが、本書のもう一つのキーワード「マントル対流」です。マントル対流は大陸の移動のみならず、ときには気候変動や極移動にまで関わる、非常に面白い現象です。
 講談社のブルーバックスシリーズでは、アーサー・クライン著、竹内均訳の『大陸は移動する』が、1973年に発刊されました。私が生まれる前の年です。この本では、大陸移動説の歴史、プレートテクトニクス理論、大陸移動の原動力などについて、1970年代前半までの固体地球科学の知見が詳しく解説されています。
 以後現在に至るまで、固体地球科学という学問は日進月歩で発展し、現在では、地震波の解析によって人が到達することのできないほど深くの地球内部の構造まで鮮明に可視化されるようになりました。また、コンピューター・シミュレーションによって地球内部の進化や変動をまるごと再現しようとするところまで到達しています。
 ドイツの気象学者であるアルフレッド・ウェゲナーは、1912年にフランクフルトで開催された地質学会で、世界で初めて「大陸移動説」を発表し、1915年に出版した著書『大陸と海洋の起源』の中で、地質学、古生物学、古気候学、地球物理学的のさまざまな観点から大陸移動説の正当性を詳細に論じ、この説を完成させました。
 来年2015年は、『大陸と海洋の起源』の出版から、ちょうど100年にあたります。大陸移動説から100年を迎えようという現在、大陸移動説がコンピューター・シミュレーションによって証明されようとしています。
 本書では、まず、固体地球科学の最新の知見にもとづいて、地球内部の構造、特にマントルやコア(地球中心核)がどのように運動し、地表の大陸移動やプレート運動に影響を与えているかについて解説しています。次に、私たちが行っているマントル対流の最新のコンピューター・シミュレーションの結果を紹介し、大陸移動やマントル対流の謎にどこまで迫っているかを解説したいと思います。
 大陸移動とマントル対流の謎に迫るべく、固体地球科学の基礎的な事柄から大陸移動とマントル対流など、地球の内部と表層の進化と変動に関する最新の研究成果に至るまで贅沢に取り込んだつもりです。本書によって、固体地球科学に対する読者のみなさんの理解が深まれば幸いに思います。

著者 吉田晶樹(よしだ・まさき)

海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野・主任研究員。博士(理学)。1974年、徳島県に生まれる。2003年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士後期課程修了。海洋研究開発機構地球シミュレータセンター研究員などを経て、2010年より現職。2011年から2012年、東京大学地震研究所数理系研究部門客員准教授。専門は地球惑星内部物理学、地球史、数値流体力学。地球物理学的手法(主に計算機シミュレーションや理論解析)によって、地球の内部や表層で起こる物理現象や地質現象(マントル対流、大陸移動、プレートテクトニクス、巨大地震など)のメカニズムの解明を目指している。

[B1883]

地球はどうしてできたのか

著:吉田 晶樹

大陸はなぜ動くのか?超大陸はどのように誕生し分裂したのか?マントル対流と大陸移動からひもとくダイナミックな最新地球科学入門。

定価 : 本体980円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257883-7

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