サイエンス異人伝

サイエンス異人伝

著者 荒俣 宏(あらまた・ひろし)

科学が残した「夢の痕跡」

イントロダクション──ドラマのようにおもしろい科学史を語りたい

 本書は、近代科学を物語として語ることをめざしている。
 科学という作業は、たしかに厳密な証明や厳密な推論から成り立っているけれど、しかし科学それ自体は、ひとがおこなう行為の一つといえる。ひとがすることであるから、もちろん、思い込みもあれば勘違いもあり、また欲望やら陰謀やらも織り込まれている。つまり、完全なドラマといえるような歴史を積み上げてきた。
 最近の例でいうなら、STAP細胞は典型的なできごとだった。私がかんがえるには、あの細胞はまだ「未検証」の段階であり、科学的証明を完全に果たしていないものである。ところが、これにさまざまな関係者のドラマが絡んでくると、もはや単なる科学の対象ではなくなって、社会的事件の方向にずれていく。これは、一面では科学論争から遠く離れたスキャンダルの様相を呈するのだが、しかしひとの行為や思い入れとしては、日本の科学史に大きな問題提起をしたともいえる。とくに、これまでは楽園とさえいわれた理化学研究所(理研)の実情が表に出たという意味では、重要なドラマだった。科学というよりも、社会的に大きな影響を及ぼしたできごととなった。
 じつは、科学の話といえども、その内情はたいへんに人間的なドラマの連続なのだ。本書は、そのような科学の歴史の人間部分に光をあてる。けっしてスキャンダルをあげつらうのではなく、科学にすら避けがたかった「非合理的な人間ドラマ」を通して、社会と影響しあった科学の裏面を紹介することに集中したい。
 かねてより二十世紀という時代の痕こん跡せきを、科学と産業技術の面からあとづけたいと熱望していた私にとって、必要なのは、科学史そのものではなく、人間化されドラマ仕立てになった科学の見世物面であった。楽天的でしかも驚異にみちた、科学の興行的な面が知りたかったのである。なぜならば、私たちに何かを欲求させるきっかけになるのは、単純な感情の高揚だからだ。便利さも楽しさも豪華さもぜいたくさも、何もかも手にいれてしまった二十一世紀の子らにとって、残る愉しみは、心が震えるような「驚異」しかないのだ。
 本書の目的はそういうことにある。あらかじめ、著者として感想を書かせていただければ、科学者ほど楽しく、しかも切なく、それでいて限りなくチャーミングだったひとたちなんて、そうはいない、という真実である。本書はもともと、科学の物語を集めて展示しているドイツ博物館と、二十世紀のチャンピオンだったアメリカにあるいくつかの科学博物館を巡り歩いた探訪記として誕生した。今回ブルーバックスに収録していただける機会を得たので、大幅に改訂し、あらたな話題を取り込みながら、もっと気軽に読める科学物語を創り直すことにした。
 そこで、第一部を、十九世紀からヨーロッパの新しい科学立国をめざしたドイツ科学の物語に充て、さらに第二部は、そのドイツに学んで科学をビッグビジネスに導いたアメリカの物語で固めることにした。
 前著とは装いを一新した読み物になっていることを祈りながら、ひとの中のひと、近代人の代表例ともいえる科学者の、おどろくべき物語を始めることにする。

著者 荒俣 宏(あらまた・ひろし)

一九四七年東京生まれ。慶応大学法学部卒業後、一〇年間のサラリーマン生活を経て作家として独立。『帝都物語』で日本SF大賞、『世界大博物図鑑 第2巻 魚類編』でサントリー学芸賞受賞。神秘学、博物学、風水等多分野にわたり執筆活動を続けル。『日本まんが』(東海大学出版会)『怪奇文学大山脈』(東京創元社)『新訳 ビーグル号航海記』(平凡社)など、著書、訳書は300冊を超える。

[B1908]

サイエンス異人伝 科学が残した「夢の痕跡」

著:荒俣 宏

過剰な刺激を欲し続ける現代人にとって、20世紀科学の発明・発見の舞台裏こそリアリティを体験できる大人の遊園地。20世紀科学の祭典にようこそ!

定価 : 本体1,280円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257908-7

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