研究を深める5つの問い

研究を深める5つの問い

著者 宮野公樹(みやの・なおき)

「科学」の転換期における研究者思考

はじめに

 あなたが「すごい」と感じるプレゼンは、どのようなものでしょうか?
 最近は、TEDの形式もすっかり一般化し、スライド1枚あたりに数秒をわりあてる「ピッチプレゼン」や、スライドには写真しか載せてはいけないとする「背景プレゼン」、そして、研究100連発といった「弾丸プレゼン」など多種多様な形式をよく見かけます。そういったさまざまなプレゼンにおいて、聴いた直後に「これはすごい……」とあなたが感じるのはどのようなプレゼンでしょうか?
 それは、当たり前ですが、プレゼンの内容がすごいということですよね。
 著者はプレゼンに関する書籍を出版する以前からプレゼンやポスターの指導をしており、その指導数は1000件を超えます。そして、その指導を通じて、本当につくづく感じることがあります。それは「発表の仕方やスライドのデザインを修正する以前に、研究テーマや内容に関する問題があまりにも多い」ということです。
 「その研究目的は、現代社会の状況をふまえていないのでは?」
 「その研究が前提としている背景はあまりにも狭くないか?」
 「研究という形にまとめるために、なんか無理して縮こまってないか?」
 「背景のところで大風呂敷を広げておきながら、手法と結論は……」
 「壮大な目的はいいとして、いったいあなたはどこまでやる気なの?」
 このように、伝え方や見た目を修正する以前に、そもそもの研究テーマや研究内容がどうしても気になるのです。著者は一貫して「見た目は一番外側の中身」という考え方のもと、見た目を修正することで自身の研究内容もまたブラッシュアップされるとし、見た目と内容について同時に見直していく方法でプレゼン修正をやってきました。そこで前著『研究発表のためのスライドデザイン』(講談社ブルーバックス)でもいい研究にするための研究内容チェックリストを掲載したのですが、それだけでは不十分と考えるにいたりました。もっと研究テーマそのものの「深掘り」について、しっかりと述べておきたい。そういう考えから本書はうまれました。
 読者ターゲットとしては、特にこれから長い研究者生活を送る若手研究者、ならびに、大学院生を想定しています。技術的なハウツー本というより、むしろ、来るべき未来を見すえた「考え方を鍛える思考的なハウツー本」をつくったつもりです。したがって、各章の最後には具体的に考えるきっかけとなる質問集をつけました。
 今、科学は新しい局面を迎えています。それは9・11や3・11を思い起こすまでもなく、社会が科学、ならびに技術そのものに対して全幅の信頼をおけなくなっている時代といえます。こうした背景をふまえつつ、未来に生きる科学者像を大胆に想定し、それを基に本質的に研究を深めるための5つの問いかけを提示します。
 なお、いうまでもありませんが、これらの問いかけは著者の「科学および学術界の見方」を示したものです。数年前まで科学研究に身をおきながら科学技術政策にかかわり、今ではすっかり他分野に移っているという一連の経験をふまえ、科学というものを客観的にとらえ直したいという想いもこもっています。いうならば、新進気鋭で生粋の科学研究者が後輩たちに伝えるようなメッセージとは大きく異なりますが、そのような本はすでに世にあふれています。なにより、それらでは満足しなかったからこそ、本書の筆を執るにいたりました。
 おそらく研究者の方の多くは、今、なにかしらの疑問を抱きつつも目の前の膨大な実験や論文作成等の日々を送っていると思います。そういうみなさんにとって、本書が一助となれば幸いです。

著者 宮野公樹(みやの・なおき)

博士(工学)。京都大学学際融合教育研究推進センター准教授。2010から2014年総長各自補佐、および、文部科学省研究振興局基盤研究課ナノテクノロジー・材料開発推進室学術調査官を兼任。専門領域は、異分野融合についての学問論、大学論、政策哲学。南部陽一郎研究奨励賞、日本金属学会論文賞ほか多数受賞。著書に「学生・研究者のための使える!?PowerPointスライドデザイン」「学生・研究者のための伝わる!?学会ポスターのデザイン術」(ともに化学同人)、『異分野融合、実践と思想のあいた?』京都大学学際融合教育研究推進センター発行(2015)がある。

[B1910]

研究を深める5つの問い 「科学」の転換期における研究者思考

著:宮野公樹

1000件を超すプレゼン指導経験から著者が見いだした「研究の本質」を、未来ある若手研究者に向けてわかりやすい言葉で問いかけながら案内する。

定価 : 本体800円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257910-0

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