世界で生きぬく理系のための英文メール術

世界で生きぬく理系のための英文メール術

著者 吉形一樹(よしかた・かずき)

短く、正確に、要点を押さえて

はじめに

“Brief, Precise and To the point.”
 1970年代末から1980年代初頭にかけて,アメリカのウエストバージニア州立大学で学んでいた私は,論文を書くにあたって,電子工学を専門とするある教授に指導を受けていました。冒頭の言葉「短く,正確に,要点を押さえて」は,論文やレポートの相談にくる学生に対し,その教授がしきりに使っていた決まり文句で,私たち学生の間では有名なフレーズでした。
 当時はまだ,インターネットも携帯電話もない時代で,大学内ではほとんどのレポートやメモが簡易プリンターかタイプライターで作成されていました。多忙な教授に自分の考えやメッセージを伝えるには,「読みやすく,簡潔なレポート」をつくる以外に方法がなかったのです。
 このとき教授に叩き込まれた「短く,正確に,要点を押さえて」という姿勢は,その後の私にとって,大きな財産となりました。
 1980年代の後半から,PCやMacなどのパーソナルコンピュータが本格的に普及し,IT時代が産声を上げました。大学を卒業して日系企業の現地法人でエンジニアとしての職を得た私は,ファクシミリからeメールへと通信手段が進化していくなかで,爆発的な勢いで増え続ける英文でのコミュニケーションに大きく関わっていくことになりました。
 自分自身でやりとりする英文はもちろんのこと,同僚や取引先の方々がネイティブ/非ネイティブ間でかわすメールやレター等の添削やチェックを任されることになったからです。特に,英語を不得手とする日本人の同僚たちと切磋琢磨するなかで,日英間のコミュニケーションギャップの問題に意識的に取り組むようになったことが,本書のエッセンスである「メール術」を体得することにつながりました。
 この間,つねに私の頭の中にあったのが,“Brief, Precise and To the point.”でした。本書は,このキーフレーズを核に,三十数年におよぶ私自身の現場での経験をふまえて書き上げた,「理系のための英文コミュニケーション」の実践書です。
 

 今やメールは,必要不可欠な情報交換のツールとなっています。メールの使い方次第で,個々人のコミュニケーションの質が大きく変化するだけでなく,研究成果や企業の重要なプロジェクトの命運さえも左右されることが少なくありません。
 提携関係にある研究機関や取引関係にある企業の間でも,ひんぱんにメールで問題提起をして,それに対する解決策を効率よくメールと電話会議型式で議論することが常識となりました。研究活動・企業活動のグローバル化はとどまるところを知りませんから,全世界を舞台にして英文メールを送受信することを余儀なくされている方も少なくないでしょう。
 なかでも,研究・生産・開発拠点が世界中に散らばり,「非ネイティブ同士」も含む英語のやりとりがスムーズにできることが要求されるエンジニアや科学者にとって,このことは非常に大きな頭痛のタネになっています。私の経験からも,いまだに英文メールに拒否反応を示す理系人は少なくありません。
 そこで本書は,多忙で時間のないエンジニアや科学者などを対象に,どのようにしたら英文メールのやりとりが効率よくできるか,ネイティブ/非ネイティブを含め,英語でしかコミュニケーションがとれない同僚やプロジェクトメンバー,共同研究者らと,いかに正確に意思を伝えあうか,すなわちグローバル化した世界を生きぬくためのメール術について,具体例を交えて考えていきます。
「読みやすく」「簡潔な」「伝わるメール」によるやりとりをいかに実践するかは,毎日,短時間で大量のメールを処理しなければならない現代のメール社会において,ますます深刻な課題になっています。かつての教授の口癖であった“Brief, Precise and To the point.”こそが,今,私たち理系人のメール術に最も必要なことであると確信し,その内容をご紹介するために本書を書き上げました。
 

 本書の内容と構成は,通常の英語学習書とはやや異なっています。
 本書では,単なる英作文の解説書に終わることをあえて避けました。代わりに,第一線で活躍されているエンジニアや科学者が,英語を使ってネイティブ/非ネイティブとメールでやりとりする際に,どのようなアプローチをとることでコミュニケーションスキルを向上させることができるかに重点を置いて解説しています。その内容は,他国の技術者との英語によるコミュニケーションが必須となっている非技術者の方々にとっても必ず役立つはずです。
 まず第1章で,私自身が過去に見聞してきたメールの実例をご紹介しながら,どのような場合に日英間のコミュニケーションギャップが起きうるかを体感していただきます。「単純な誤訳」に始まり,「不正確な説明」「専門用語の不明確な使用」「あいまいな返事」といった文化的な背景を抱える問題など,さまざまなレベルにおける現場の実例をみていきます。
 第2章では,メールの基本を確認しながら,受信者と送信者,それぞれの立場における“心理の違い”を考えてみます。「伝わらないメール」になってしまう大きな理由の1つとして,送受信する立場の違いを意識せずに書かれていることが挙げられるからです。
 第3章は,本書の心臓部です。私たち理系人が英文メールを書く際にどのようなアプローチをとればいいのか,ズバリ回答します。筆者独自の「So what? Why? 式ロジカルマインド3ステップ法」を活用し,メールをロジカルに作文するユニークな方法をご紹介します。
 第4章では,「伝わるメール」を書くための基本的なチェック項目や,簡潔な文章を作成するために有効なテクニックなど,どれをとっても見逃せないノウハウを解説します。
 第5章では,技術メールやレポートでひんぱんに使われる動詞表現を中心に,その意味と正確な使い方を復習しましょう。私たち非ネイティブの技術者にとっての大きな問題は,英単語の定義と解説が辞書によって微妙に異なり,「確実に知っておくべき意味と用法はどれか」が不明確なところにありました。
 第5章の執筆にあたっては,筆者の経験をふまえつつ,技術翻訳のプロフェッショナルであるWilliam Clemens氏のアドバイスも得て,「これだけは確実に押さえておきたい」というポイントをまとめています。簡易な辞書代わりとして,ご活用いただければ幸いです。
 

 なお,本書でご紹介するメールの文例は,私や私の同僚たちが実際に体験した例をもとに,固有名詞や場面設定を適宜アレンジしたものです。
 

 本書を手にとっていただいた読者のみなさんに,心から感謝申し上げます。本書を通じて,筆者が長年かけて習得してきた技術英文のエッセンスを短期間で学ばれ,日々の実践で活かしてくださることを願ってやみません。

著者 吉形一樹(よしかた・かずき)

一九五五年、岡山県日生町生まれ。七九年に米国・ウエストバージニア州立大学・機械工学学科に編入。学士、修士を修了後、同大学研究員などの職を経て、九四年に機械工学博士号(PhD)を取得。以来、機械、電子、半導体機器関連の大手国際企業でエンジニアリング・マネージャーとして、欧米やアジアなど、世界各国のエンジニアと日本人エンジニアとの間のコミュニケーションを監督するかたわら、効果的なメール及びプレゼンテーション法の開発に従事してきた。専門のロボット工学をはじめ、天体物理学や航空飛行にも造詣が深く、九七年にはプライベートパイロットの資格を習得した。現在、カリフォルニア州サンノゼ市在住。

[B1934]

世界で生きぬく理系のための英文メール術 短く、正確に、要点を押さえて

著:吉形一樹

「英語力」より「想定力」を磨け! 効率的に自問自答できるフローチャートで、グローバルに通用する英文メールが誰でもすぐに書けるようになる。

定価 : 本体980円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257934-6

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