Q&A 火山噴火 127の疑問

Q&A 火山噴火 127の疑問

編者 日本火山学会(にほんかざんがっかい)

噴火の仕組みを理解し災害に備える

改訂版はじめににかえて―日本列島はだいじょうぶ?

▼最近の噴火
 二〇一一年の東日本大震災を境に、日本では火山活動が活発化しているような印象があります。実際に、それ以前に比べて火山活動が活発化しているのかどうかはっきりしたことは分かりませんが、東日本大震災以降、国民の多くがこれまで以上に自然災害に注意を向けるようになったのは事実です。その中で、二〇一四年九月に発生した御嶽山(おんたけさん)の噴火による災害は、火山災害としては戦後最大のものとなり、火山噴火にも国民の注意が向けられるようになりました。そのような背景の中で、これまでにない噴火回数を記録している桜島や十数年ぶりに噴火した阿蘇山の活発化をはじめとして、噴火にいたらないまでも、草津白根山、蔵王山、吾妻山の活発化が見られ、二〇一五年五月には口永良部島(くちのえらぶじま)の新岳が、六月には浅間山と箱根山(大涌谷(おおわくだに))が噴火しました。口永良部島では、噴火警戒レベルがそれまでの三から五に引き上げられ、全島避難となりました。噴火警戒レベルが五に引き上げられたのは、二〇〇七年に噴火警戒レベルが導入されてから初めてのことです。


▼御嶽山の噴火
 岐阜県と長野県の境にある御嶽山(標高三〇六七メートル)が二〇一四年九月二七日に水蒸気噴火を起こしました。この日は晴天の土曜日という秋の行楽日和で、御嶽山の山頂部(剣ヶ峰周辺)は多くの登山者で賑わっていました。噴火は午前一一時五二分に発生し、山頂部にいた六三名(行方不明者を含む)が犠牲になりました。この噴火の火山灰放出量は約五〇万トンと、噴火としては規模の小さいものでした。
 御嶽山は、かつて死火山と考えられており、一九七九年に突然水蒸気噴火を起こしたために、「死火山」という用語がとりやめになり、それまでの、「おおむね二〇〇〇年以内に噴火した記録がある火山および噴気現象のある火山」という、活火山の定義を考え直すきっかけになりました。また、御嶽山では、二〇〇一年と二〇〇七年にも小規模な噴火をしていました。その後のくわしい地質調査から、最近一万年間に一〇回以上の水蒸気噴火やマグマ噴火を繰り返していることが分かってきました。火山噴火予知連絡会では、御嶽山を全国四七の常時観測火山の一つに選定し、二四時間体制で監視していました。また、二〇〇七年には火山活動度と災害防止の指標となる噴火警戒レベルを導入し、登山者にも危険度が分かるしくみを整えていました。それによると、噴火直前で御嶽山の噴火警戒レベルは一(平常)だったのです。
 二〇一四年の噴火では、噴火の約半月前には火山性地震の回数が高まる時期があり、気象庁は火山情報を出して、地元自治体に注意をうながしていました。しかし、地震活動の高まりが二日で収まったことや、二〇〇七年の噴火の際に見られた、山体膨張が明瞭に見られなかったため、警戒レベルを上げるまでにはいたりませんでした。このような情報は残念ながら登山者には伝わることはありませんでした。そして、九月二七日の噴火は明瞭な前兆現象を伴わずに起こったのです。山頂付近にいた登山者や山小屋関係者は、突然、眼下の地獄谷から湧き上がってきた火山灰の雲(火砕サージ)に驚きました。噴火の最盛期は約三〇分間継続しました。山頂付近にいた登山者の多くが火砕サージに巻き込まれて身動きが取れない中で、空から噴石がほぼ同時に降り注ぎました。この噴石によって多くの登山者が犠牲になりました。運良く山小屋に逃げ込んだ八〇名以上の登山者はかろうじて難を免れることができました。噴火警戒レベルは噴火直後に三に引き上げられました。
 地獄谷は噴気地帯で一九七九年の噴火の火口域です。二〇一四年の噴火は、地獄谷の地下にあったと想定される熱水溜まりが、さらに地下からの熱の影響で膨張・破裂し、それによって熱水溜まり全体が減圧・沸騰することによって起きたと考えられます。噴火の推移は一九七九年とよく似ていましたが、二〇一四年の噴火の規模は一九七九年の半分程度でした。災害の規模は噴火の規模とは必ずしも関係がないことを物語っています。
 この噴火による犠牲者数は戦後の日本の火山災害では最大のものでした。そのため、この噴火がきっかけとなって火山観測体制の見直しや火山情報の発信の仕方についての新たな検討がなされました。その中で、「レベル一(平常)」が誤解を与えることから、「平常」を「活火山であることに留意」と改められることになり、活火山に登る方々への平常時からの注意が必要であることが盛り込まれることになりました。また、二〇一五年八月からは気象庁が噴火速報を発表することになりました。


▼口永良部島の噴火
 口永良部島は屋久島の西約一二キロメートルにある火山島です。この火山は、最近数百年間にはしばしば噴火が繰り返され、最近では数十年おきに活動期と静穏期を繰り返していました。活動期には噴火の継続時間が短い爆発的な噴火(ブルカノ式噴火)が数年以上にわたって断続的に繰り返されました。二〇〇〇年頃から地震活動や地殻変動が活発化し、二〇〇五年頃からは山頂域の温度の上昇と噴気活動の活発化が認められていました。GPSでは山頂直下数百メートルの場所を中心に、膨張現象が認められていました。二〇一四年八月三日にはマグマ水蒸気噴火が発生し、低温の火砕サージが山の西側に発生しました。この噴火直後に噴火警戒レベルが三に引き上げられました。
 その後も山頂域の火山活動は活発な状態を維持し、二酸化硫黄の放出量が日量数千トンを超す状態となる中、二〇一五年一月や五月には有感地震が発生しました。合成開口レーダによる観測では、二〇一五年三月以降、火口域直下を中心とする隆起が認められるようになり、五月二三日の有感地震の後から、火口付近に無人ヘリコプターで設置した地震計では地震回数が増加し続けていました。そのような背景の中で、五月二九日午前九時五九分には中規模のマグマ水蒸気噴火が発生しました。最初の爆発によって火砕サージが火口の全方向に発生し、西や北西方向では、三キロメートル近く流れ下り、海岸や居住区の一部にまで達しました。また、その噴煙は高度九キロメートルにまで達しました。
 この噴火によって噴火警戒レベルは三から五に引き上げられ、噴火した二九日の夕方までに全島避難が完了しました。口永良部島では、五月二三日の有感地震の後、自治体が住民に対して噴火警戒レベルや避難の手順などについて説明会を実施し、避難の準備を行っていたため、この噴火による犠牲者は出ませんでした。
 旧版『Q&A 火山噴火』は二〇〇一年四月に刊行されましたが、その前後にも、有珠山と三宅島の噴火や、富士山の低周波地震の増加、岩手山の噴火未遂など、最近の日本列島と同じように火山活動が活発化しました。二〇一四年の御嶽山の噴火をきっかけに再び、日本列島の火山活動が活発化したように感じられるかもしれません。御嶽山の災害を忘れずに、また教訓にして火山による災害から身を守り安全な生活、そして登山ができるようにという思いを込めて、御嶽山の噴火から一年という節目に、改訂版を出版することにしました。
 第1章「あの山は大丈夫?」、第7章「ふるさとの火山について教えて!」は大幅に加筆しました。とくに、この一年で活発な火山の現状について分かる範囲で解説しています。今どういう状況なのか、これからどうなるのかが想像できる手助けになればと思います。第2章から第6章までと、第8章は、火山の基本的な内容です。火山についての一般的な知識を得たい方のための解説となっています。
 第9章は、大きく加筆・訂正をしています。とりわけ、火山情報の出し方、また、活動レベルの設定の基準なども変更されています。現実に即した対応によって災害から身を守るための方法を述べ、新しく加えた第10章では、いまだに難しい火山噴火予知の現状に触れています。
 本書を通して、日本人にとって身近な火山を、ただ恐れるのではなく、生きていく上でなくてはならない存在である、という別の視点に立って火山を見直してもらえることを願っています。
 火山学者とは、火山噴火が起きた時、その原因について解説し、活動の予測が仕事だと思われているようです。それはほんの一部であって、火山を通して地球の営みの原因に迫るのが目的なのです。地球のダイナミズムがあるからこそ、火山の活動がもたらされているのです。

編者 日本火山学会(にほんかざんがっかい)

一九三二年に地質学者らが設立。第二次世界大戦中は活動できず、一九五六年に再発足。この時には学会の目的を「火山およびこれに関連する諸科学の進歩と発展」とし、そのため「火山を共有の研究対象とする様々な分野の研究者が討論できる集まり」をめざして、地質学者にとどまらず、地球物理学者、地球化学者なども参加。現在の会員は、防災、報道などの分野を含めた約一二〇〇名。会の事業としては会誌「火山」その他の出版物の刊行、年二回の学術講演会や一般向けの公開講座の開催など。

[B1936]

Q&A 火山噴火 127の疑問 噴火の仕組みを理解し災害に備える

編:日本火山学会

富士山は噴火しないのか、火山災害から身を守るには、噴火予知は可能か……。火山噴火にまつわるさまざまな疑問に火山学者が真摯に回答します。

定価 : 本体900円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257936-0

既刊一覧

連載読み物

サンゴ礁からの警鐘
「7割死滅」の次に待ち受けていること

第3回 「幼生」に迫る危機

山本智之

“石”だと思われていたサンゴ  サンゴを語るうえで...

2017/03/24

ページTOPへ