門田先生の3Dプリンタ入門

門田先生の3Dプリンタ入門

著者 門田和雄(かどた・かずお)

何を作れるのか、どう役立つのか

はじめに

 2011年頃から、樹脂を溶かして積層する低価格の「3Dプリンタ」なるものが日本にも導入されはじめ、2013年から2014年にかけて、メディアなどで取り上げられる機会が増えたこともあり、「3Dプリンタ」という言葉が広く知られるようになった。この間、3Dプリンタは家電量販店で販売されたり、国内製品が発売されたこともあり、実際に3Dプリンタを手にする人々も増えてきた。そんな中、高精度の3Dスキャナを用意して、3Dプリンタの出力サービスをするスペースや3Dプリンタをシェアして利用するスペースなども数多く生まれた。さらには、3Dプリンタを自作するグループなども現れ、「3Dプリンタ」をキーワードとして、さまざまな関わり方をする人々が増えている。この3Dプリンタが今後、どのような形で私たちの生活と関わっていくのかを予測することは難しいが、私たちの身近に現れたこの新しいデジタル工作機械が一時のブームで完全に消え去ることはないだろう。
 科学技術が進歩すればするほど、ものを作ることは一部の専門家の仕事になってしまい、それ以外の人はそれを享受するだけで、ものの修理さえもしなくなっているということが言われて久しい。もちろん、3Dプリンタが普及すると言っても、一人一台や一家に一台という時代がすぐに到来するとは思わない。しかし、大量生産でこれだけものがあふれた時代に、自分だけのものを作りたい、あの人だけのものを作りたいという気持ちがわいてくるのも必然であろう。
 これまでにも「自分で作ろう:DIY(Do It Yourself)」の精神で日曜大工やガーデニングに取り組む人は存在した。3Dプリンタの普及もある意味ではこの流れの中にあるだろう。しかし、これまでのDIYと大きく異なる点として、3Dプリンタはデジタルデータを扱うということがあげられる。デジタルデータはインターネットなどを介することで、一瞬にして世界を駆け巡り、人を惹きつけるデジタルデータは素早く拡散し、また元データを改良してよりよいデータが作られるということなども容易になる。また、近年世界中に急速に広まっているものづくりの市民工房であるファブラボでは、デジタル工作機械を複数の人たちが共有して活用するなどの例も見られる。これはDIYがさらに進化した「みんなで作ろう:DIWO(Do It With Others)」とよばれ、ものづくりの新しい流れになってきている。
 この流れに乗るか乗らないかは、もちろん個人の自由である。ただし、科学技術に少しでも興味をもち、本書を手にしたあなたは、何かしら3Dプリンタに興味や関心をもっているのではないだろうか。
 私自身、一般の方より少し早い2012年に3Dプリンタを海外から購入し、これまで3Dプリンタのおもしろさや難しさを体感してきた。そこで感じることは、現在の安価で普及しつつある3Dプリンタはまだまだ精度や速度などの面で不満な点も多いが、「3Dプリンタは理系脳を鍛え、今後、クリエイティブクラスで生きていくための強力な支援ツールになるだろう」ということである。クリエイティブクラスとは、アメリカの都市経済学者リチャード・フロリダによって生み出された階級であり、具体的には、科学、エンジニアリング、デザイン、芸術、音楽、法律、ビジネス、金融などに従事している知識労働者層のことを指す。これらの職業において、コンピュータは既に必須のツールである。今後、これに3Dプリンタなどのデジタル工作機械を結びつけることで、より活動の幅を広げる人間が出てくるであろうと予測するまでもなく、すでに多くの活動事例が実際に生まれつつある。
 また、私自身、デジタル工作機械を備えた市民工房を運営するファブラボジャパンネットワークのメンバーとして日々活動しており、2013年8月からは横浜にあるファブラボ関内の運営にディレクターとして関わってきた。また、世界ファブラボ代表者会議にもこれまで4回出席し、世界的なファブラボの広がりを間近で実感している。同時にこの間、東京工業大学附属科学技術高校においてデジタル工作機械の活用を含めて、幅広く、機械工学やロボット工学の教育実践に取り組んできた。
 これらの経験を踏まえて、「わかる」「使う」「作る」という視点でまとめたのが本書である。本書は、1部「3Dプリンタがわかる」、2部「3Dプリンタを使う」、3部「3Dプリンタを作る」から構成される全8章からなる。全体を通して3Dプリンタを理解していただけるようにするため、その科学技術的な内容のみならず、第6章では3Dプリンタとともに話題になることが多い、デジタルファブリケーションやものづくりの市民工房であるファブラボについてまとめ、第8章では3Dプリンタの未来を展望した。
 現在にいたるまでの3Dプリンタブームを冷静に俯瞰しつつ、現時点での3Dプリンタに関係する基盤技術についての理解を深めていただき、3Dプリンタを使ったり、3Dプリンタを作ったりする活動への一歩を踏み出すための一冊にしていただけると嬉しい。

著者 門田和雄(かどた・かずお)

宮城教育大学教育学部技術教育講座准教授。博士(工学)。東京工業大学附属科学技術高等学校機械システム分野教諭を経て、2015年より現職。2013年よりファブラボ関内のディレクターをつとめる。機械技術教育の実践と研究を活動の柱として、3Dプリンタ、ロボット、ねじなどに深い興味をもつ。主な著書は『基礎から学ぶ機械設計』『基礎から学ぶ機械工作』(SBクリエイティブ)、『トコトンやさしいねじの本』『トコトンやさしい制御の本』(日刊工業新聞社)など多数。

[B1938]

門田先生の3Dプリンタ入門 何を作れるのか、どう役立つのか

著:門田 和雄

3Dプリンタの原理や構造、利用法を一般向けにやさしく解説。3Dプリンタで盛り上がる「ものづくり」の現状や今後の展望もひと通り理解できる。

定価 : 本体860円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257938-4

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