理系のための論理が伝わる文章術

理系のための論理が伝わる文章術

著者 成清弘和(なりきよ・ひろかず)

実例で学ぶ読解・作成の手順

まえがき

 この本は、日本語を使った論理の扱い方、つまり論理的文章の読み取り法と作成法を、できる限り具体的に説明しようとするものです(この本でいう論理とは、客観的な「事実」をもとに一般化・抽象化していく帰納的な方法です)。


 このような分野では、木下是雄『理科系の作文技術』や本多勝一『日本語の作文技術』などの著書がすでに数多くあります。しかし、それらの大半は文章の読み取り法を説明していません。また作文技術ではテーマが限られ、表現の解説では不十分な点があります。なにより、論理の進め方にはほとんど言及されていません。これらの欠落を補うことを目的として、この本を執筆しました。


 本書の第1の特長は、読み取り法をかなりくわしく説明していることです(第2章)。最終的には論理的文章を作ることを目指すのですが、いきなりは無理です。先輩たちの作法を学ぶ必要があります。そのための読み取り法なのです。これも高校までに教わった人は少ないでしょう。もちろん、こんなことは百も承知だとおっしゃる人は読み飛ばしてもらって結構です。


 第2の特長は、論理的に考えるという作業を、それぞれの段階でくわしく説明していることです(第4章)。その作業過程を十分に理解して下さい。この作業の結果を記す作成法(第5、6章)は、いってみれば読み取り法(第2章)のベクトルを180度回転したものです。


 このように、読み取り法と作成法はたいへん密接な関係にあります。これらをともに説明しようとするのが、この本の最大のネライです。いわば、日本語を使った論理の「受信法」と「発信法」をマルゴト説明しようとする本なのです。


 そもそも、日本語などの自然言語を使って論理を扱うのは、日常のさまざまな場面において避けられません。たしかに正確な論理という点では、数学などの人工言語を用いる方がはるかに優れています。ですから、いわゆる理系の各領域や論理学などでは、数式や記号で説明することがほとんどです。理系の実験レポートなども数式や記号が中心となるでしょう。そういえば、理系学部の入試でも国語(日本語)はあまり重んじられていません。だから、日本語を論理的に扱うことなど必要ないと考えていませんか。


 しかしながら、つねに一定せず複数の顔を持つあいまいな現実世界では、数学などの人工言語が対応できる領域は非常に限られたものとなります。やはり、あいまいな日本語を使って、不正確でも論理的に考えねばならない場合が圧倒的に多いのです。


 現代日本の代表的な自然科学者で、ノーベル賞受賞者の益川敏英さんと山中伸弥さんのお2人も、ともに「国語力」の重要性を強調されています(益川敏英・山中伸弥『「大発見」の思考法』)。お2人の言われる「国語力」とは学校教育での「国語」力ではなく、人工言語を含めた言語一般を理解・運用する能力のことです。つまり、自然言語を理解・運用する能力も重要だとおっしゃっているのです。


 また、当然のことながら数学などの人工言語は自然言語を基礎としています。したがって、数学を上手に扱うには、ある意味では自然言語の基礎力が必要です。さらに人類史や個人史を考えても、自然言語が基礎であることは明白です。人工言語が先に発生した、身についたなどとは考えられません。お釈迦様にも、誕生時に「天上天下唯我独尊」という自然言語を発したなどというエピソードが伝えられているのですから。いずれにせよ、自然言語は人工言語を理解・運用するうえでも重要なのです。


 そのうえ、理系以外の人とのコミュニケーションは数式や記号だけでは行えません。適宜、自然言語を活用する必要があります。ですから、基礎教養課程の課題レポートなどは自然言語を中心として作成しなければなりません。また、就活時のエントリーシートなどを考えて下さい。志望動機や自己アピールなどは数式や記号で書けるものではありません。日本語(自然言語)でわかりやすく(つまり論理的に)記さねばなりません。各企業の採用担当者は人事部に属する人が大半で、その多くは文系の人間ですから。


 ところが、高校までの国語教育では人間の情緒を豊かにする情操教育が中心です。これは素晴らしいことなのですが、論理の扱い方はほとんど伝えられていません。欧米の言語教育と比べると、それはかなり不足しているようです。


 したがって、日本語(自然言語)を使った基本的な論理の扱い方について、一定のことは確実に身につけておくべきなのです。


 ただし、この本では、レポートや論文などの具体的な作成法についてはあまり詳しく触れていません。そうした知識については、すでに数多くの書物が紹介していますので。そうではなく、本書は、それらの基本となる論理の扱い方を中心に説明しているのです。ですから、学生の皆さんだけではなく、国語(論理的な文章の扱い方)を苦手とする高校生・受験生などにも参考になると思います。あるいは、仕事上の業務などで、一般の方にも参考になることがあるのではないでしょうか。

著者 成清弘和(なりきよ・ひろかず)

1951年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部史学科日本史学専攻卒業。近畿大学理工学部、大阪大学外国語学部、関西大学文学部などの非常勤講師を歴任。 塾・予備校・大学などの場で、長年にわたり国語(日本語)教育に携わってきた。主な著書に『日本古代の王位継承と親族』『日本古代の家族・親族』(いずれ も岩田書院)、『女性と穢れの歴史』(塙書房)、『女帝の古代史』(講談社現代新書)など。

連載読み物

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〔フローレス篇〕第3回 予想外の人類を研究する。

文 川端裕人

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2017/06/20

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