サッカー上達の科学

サッカー上達の科学

著者 村松尚登(むらまつ・なおと)

「障害」と「個性」のあいだ

はじめに

 唐突ですが、ジャンケンで確実に勝つ方法をご存じですか?


 正解は……、〝後出しジャンケン〟。「ズルい!」という声が聞こえてきそうですね。確かに、「同時に手を出す」ことがルールとなっているジャンケンで「後出し」するのは反則です。


 でも、これがサッカーの試合中だったら? 相手の動きを察知して、それを出し抜くプレーを選択する。本当はトラップしようと考えていたけれど、相手が体を寄せてくるのを見て、瞬間的にワンタッチで味方にパスを出すプレーに切り換える。個人個人が責任を担う局面を有利に進めることで、チームとしての勝利により近づくことができるのですから、称えられてしかるべきです。


 本書は、サッカーのプレー中に〝後出しジャンケン〟できる選手になりたい、そんな選手を育てたい―そうした潜在的な願望をもっている人のために書きました。
 私の念頭には、以前に耳にしたある選手の言葉があります。


「ボールをトラップする瞬間、ボールは目の端っこでしか見ていないよ。仲間や相対する選手の動きを確認しながら、『オレは右側にトラップしてドリブルに移るつもりだけど、お前はどうする?』『もし右側をケアしにくるなら、オレは左に動く準備もできてるけど、さてお前はどうする?』という感じで、相手と駆け引きしながらトラップの瞬間を楽しんでいるんだ」


 サッカーで〝後出しジャンケン〟できる選手―彼はその、ひとつの理想型です。


 違う表現をしてみましょう。「バスケットボールのように、サッカーをプレーできたらいいな」―そんなふうに思うこともあります。足に比べてより器用に動かせる手でボールを扱うバスケットなら、たとえばドリブル中にボールをまったく見ずに目と意識を周囲の状況や相手の動きを認識するために向けることができ、そのぶん優位に駆け引きに臨むことが可能です。ギリギリでプレーの選択肢を変えられる。〝後出しジャンケン〟の本質のひとつがこれです。


 もうひとつ、大事なことがあります。後出しジャンケン的にギリギリの判断でプレーを変えようにも、体が動かなければ意味がありません。トラップする直前に、相手が猛然と寄せてくるのに気づいた。でも、ワンタッチでのパスに切り換えることができずに、ボールを奪われてしまう―サッカーの言葉で言えば、「見えている」のに、それに対応できない状態です。「自分の思いどおりに体を動かせる」こともまた、後出しジャンケンに必要不可欠な要素なのです。


「両足を自在に操り、つねに相手の逆を突ける選手」―具体的に言えば、FCバルセロナで活躍するアンドレス・イニエスタやネイマールがその代表でしょう。彼らのようなトップ選手の名前を聞くと、「その能力は『天性』のもの」と思ってしまいがちですが、それは違います。実は、トレーニングによって習得できる要素が多々あるのです。しかも、何気なくやっている〝いつもの練習〟にちょっとした工夫を加えるだけで―。


 本書で紹介する全42トレーニングは、リフティングやコーンドリブルなど、サッカーの練習ではおなじみのメニューが中核を成しています。ウォーミングアップ代わりになんとなく採り入れているチームも多いと思いますが、実にもったいない!


 リフティングなら、使えるキックの種類や、ボールを上げていい高さを制限する。ドリブルなら、スキップを採り入れて、リズムを設定する。さらには、判断力を養うために「言葉遊び」の要素を加える……、などのひと工夫で、後出しジャンケンのできる「ほんとうに巧い」選手へとステップアップするトレーニングに早変わりするのですから。


 中には、ハイハイ歩きやおんぶなどの風変わりなメニューもありますが、これらはいずれも、関節の可動域を広げたり、複数の関節の連動性を高めたり、あるいは重心移動のコツを掴んだりするなど、「思いどおりに体を動かす」ための基礎を固めてくれるものばかりです。


 そして、体を動かすトレーニングは、実際の動きを見てまねるのが第一歩。本書では、全メニューを実演した動画が用意されています。メニューによっては、前から撮影したもの/横からのもの、通常スピードとスーパースロー再生のものなど、複数種の映像を準備しました。サンプル動画を、下記のアドレスからご覧いただけます(http://bluebacks.kodansha.co.jp/special/football-movies.html)。


 ゲーム性の高いトレーニングもたくさん含まれていますので、チームみんなで楽しみながら、上達に励んでください!

著者 村松尚登(むらまつ・なおと)

一九七三年、千葉県生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、九六年にスペイン・バルセロナへ。以降、同国で一三年間、八クラブの指導に携わる。二〇〇四年に スペインサッカー協会の上級コーチングライセンス(日本のS級ライセンスに相当)を取得。二〇〇六年よりFCバルセロナの現地スクールにて唯一の外国人 コーチとして一二歳以下の子供たちを指導。二〇〇九年にはFCバルセロナスクール福岡校の立ち上げと指導に携わり、二〇一三年三月に水戸ホーリーホックの アカデミーコーチに就任、現在に至る。著書に『テクニックはあるが、「サッカー」が下手な日本人』、監修に『最速上達サッカー オフ・ザ・ボール』など。

[B1966]

サッカー上達の科学 いやでも巧くなるトレーニングメソッド

村松尚登

「バルサ流」の指導法が日本で進化した! 技術のある選手が「ほんとうに巧い選手」に化ける秘訣とは? 人気コーチが徹底伝授!

定価 : 本体900円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257966-7

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