へんな星たち

へんな星たち

著者 鳴沢真也(なるさわ・しんや)

天体物理学が挑んだ10の恒星

はじめに

「キャー!」


 標高435mの大撫山(おおなでさん)の山頂に、黄色い声が響きます。


「うしかい(牛飼い)座のアークトゥルスと、おとめ座のスピカ、日本ではこの二つは“めおと星”とよばれています」


 と私がいったときに、若い女性客らが発したのです。


 
 兵庫県立大学に所属する西はりま天文台は、兵庫県南西部の佐用町大撫山にあります。日本国内最大の2m光学望遠鏡「なゆた」はここで、夜の9時までは一般の方に向けた天体観望会をしています。このように公開されている望遠鏡という条件をつければ、「なゆた」は世界最大のものです。


「なゆた」での天体観望のあとは、屋外に出ての星座解説です。いわば天然の星空でのプラネタリウム(業界用語では天プラといっています)。これも、ここに20年以上勤めている私のお得意の時間です。今夜も吸い込まれそうなほどの、美しい夜空。


「めおと星に、しし座のデネボラを結んでできるのが、“春の大三角”。そしてここにある星は、りょうけん(猟犬)座のアルファ星、コル・カロリ。高カロリーじゃないよ」


 今度は子供たちが爆笑です。


「春の大三角にコル・カロリをつけると、大きな菱形ができますね。これが、“春のダイヤモンド”、あるいは“乙女のダイヤ”といいます」


「素敵すぎ~!」


 またまた若い女性の歓声。星空をつうじてお客様と心が通い、私も天文台に勤めてよかったなと感じる頃には、観望会が終わる時間となってしまいます。


「またお越しください」


 お客様を見送ったあと、しかし、なにか私の心にさみしさも残ります。


 星と星を線で結んで、それがなんとよばれているのか、あるいは白鳥の形に見えるとか、勇者オリオンに見えるとか、そういったことを解説すれば、喜んでくれるお客様もたしかにいらっしゃるのですが、しかし、それは星そのものの本質ではないのです。


 星にはそれぞれ表情豊かな個性があります。でも、たかだか10分程度の天プラでは、一つーつのおもしろみを伝えることはできません。そこで、本書の執筆となりました。


*   *   *


 本書の主役は、恒星です。恒星とはなんでしょうか? この宇宙に存在する天体は、おおざっぱにいうと恒星と惑星に2分できます。恒星とは、自分自身から光を出している天体です。夜、電灯をつけたら部屋の中にボールがあることがわかったとしましょう。このとき、電灯が恒星、ボールが惑星というわけです。みなさんが一番よく知っている恒星は太陽です。では、なぜ恒星は光を出すのでしょうか? それはこの本のなかで解説しています。


 恒星は宇宙に均一に分布しているわけではなく、あちこちで群れをなしています。この群れが銀河です。代表的なもので直径10万光年(1光年は約10兆キロメートル)というスケールです。私たちの太陽系が存在している銀河は「天の川銀河(銀河系)」といいます。


 一つの銀河には、1000億の桁の恒星があると考えられています。その銀河が、この宇宙にはこれまた1000億の桁あるといわれています。したがって宇宙に存在する恒星の数は、桁でいえば1000億個×1000億個ということになります。1のあとに0が22個つくのです。講演会でこういった話をすると、たいていの聴講者はここで笑い出します。もう、呆れてしまって、笑うしかないのです。いったいぜんたい、これはどれほどの数なのでしょう? たとえば、日本中のすべての海岸にある砂粒の数を思い浮かべてください。もちろん鳥取砂丘も入れてくださいよ。でもじつは、まだ足りません。今度は世界中のすべての海岸の砂粒を想像してみてください。想像できましたか? いま、あなたが「だいたいこれくらいかな」とイメージできているとしたら、ちょっと変わった人かもしれません。だって、世界中の海岸の砂の数ですよ?「そんなの想像つくわけないだろ」と思うほうが普通でしょう。ところがじつはじつは、1000億×1000億という恒星の数は、世界中の海岸に存在する砂粒の総数よりも、まだ多いのです。星は文字通り「星の数」ほどあるのです。


 さて、今度は夜空を見上げたときの話です。みなさんはいくつ星座を知っていますか? 恒星とは、星座をかたどる星でもあります。何年たっても、恒星と恒星の位置関係は変わりません。だから「恒なる星」とかいて恒星というのです。お互いの位置が変わらないので、星座ができたわけです。一方で、何日も何ヵ月もかけて観察していると、恒星の間を移動している天体に気がつきます。こちらが太陽系内の惑星です。星座の中を「惑う星」なので惑星というわけです。


 恒星と惑星には見分け方があります。あなたにウィンクしてきたら恒星、あなたをじつと見つめていたら惑星です。恒星は瞬き、惑星は瞬かないのです。今度、それを意識して観察してみてください。


 ブルーバックス・シリーズを手にされるような方は「宇宙」といえば、ダークマター、ブラックホール、ビッグバン、マルチバースといった、いかにも最先端をいくような話題を好まれるのかもしれません。恒星というと、夜空のどの星を見ても、明るさに違いはあってもどれも点。配列が変わるわけでもなく、どうにも地味――そんな感じを持たれているかもしれません。


「恒星なんてつまらない」


 でも、そう思われている方にこそ、本書を読んでいただきたいのです。


 この本は恒星の中でも、とくに変わったものたちに登場してもらいます。SF映画にも出てこない二つの円盤を持ち、しかも一つが反り返ってしまった星! 大気の組成がかなり異常!? 地球外知的生命のしわざか!? といわれた星! なんとなんと恒星のくせに10光年もの長いしっぽを生やした星! おまえは彗星か!? 墨を吐き出して姿をくらます、まるでタコな星! どんどん膨らんで一時は天王星(いや、ひょっとすると海王星)の軌道ほどにも大きくなったバケモノ星! 爆発したら人類が絶滅するかもしれない星? などなど、奇想天外な恒星たちのオンパレード。おおげさにいえば、星の数ほどある恒星のなかから私が厳選した、10個の超・超変わり者の星たちです。


 地球から見ればただの点にすぎない恒星には、じつはこんなに個性があって、こんなにおもしろいんだ――そう思っていただければ、何よりの幸いです。


「みんなちがって、みんないい」


 まさに、金子みすゞの詩にあるとおりなのです。


 さらに本書では、これらの星たちがいったいなぜこんなに変なのか、その謎も解き明かしています。なかには、謎解きの過程がまるで科学推理小説のようにおもしろい星もあります。はるか遠くの星のさまざまなことがわかるようになってきたのは、天体物理学という学問の進歩のおかげです。この本を一読されると、みなさんも天体物理学の基礎に触れられるように工夫したつもりです。宇宙論や惑星科学の解説書はたくさんありますが、ぜひ恒星の物理も身近に感じていただき、そのおもしろさを味わってください。


 なお、本書ではとくに断りがない場合は「星」といえば恒星のことを指します。


 自然界には必ず例外というものがありますが、話をわかりやすく展開するため、あえて例外については触れていないところもあります。同じ理由から、細部をはしょったところもままあります。もし、天文学にとてもくわしい読者なら、厳密ではないと思われるところがあるかもしれませんが、そこは目をつぶってくださいね。また、星の発見者や研究者などには外国人の名前が多く出てきます。それを日本語で表記するのは難しいのですが、編集者が読み方をきちんと調べてくれました。でも、もしも違っていたら、それはご愛嬌ということにしてください。


 それでは、へんてこな星をめぐる宇宙旅行に出発しましょう!

著者 鳴沢真也(なるさわ・しんや)

兵庫県立大学西はりま天文台天文科学専門員。博士(理学)。一九六五年長野県生まれ。福島大学卒業後、同大学院修了。宮城県立高校の理科教諭を経て現在の 職場に勤務。近接連星を構成する脈動変光星の化学組成の研究により広島大学大学院理学系研究科から博士号を取得(論文博士)。専門はSETI(地球外知的 生命探査)。著書に『137億光年のヒトミ』(そうえん社)、『ぼくが宇宙人をさがす理由』(旬報社)、『宇宙人の探し方』(幻冬舎新書)など。二〇〇一 年より『理科年表』の「明るい食連星の推算極小」のページを執筆している。

[B1971]

へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星

鳴沢真也

恒星には、私たちの「星」の概念をひっくり返すへんてこな星がたくさんある! なんでそんな恰好に? なんでそんなふるまいを?

定価 : 本体980円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257971-1

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