海の教科書

海の教科書

著者 柏野祐二(かしの・ゆうじ)

波の不思議から海洋大循環まで

まえがき

 たいていの読者の皆さんは、浜辺に立って海を眺めたことがあると思います。また、潮干狩りをしたことがある読者もいるかと思います。そうして海に接していると、不思議に思ったことはないでしょうか。たとえば、波はどこでどのように生まれたのか、潮が満ちたり引いたりするのはなぜだろうといった疑問です。実際、私は五歳の時に父に「波はどうして起きるの?」と質問して、困らせた記憶があります。しかし、それらの疑問に対して答えられる人は少ないのではないでしょうか。


 また、日本は海に囲まれた国です。そして日本人は多大な恩恵を海から受けています。しかしながら、海のことを学んだ日本人はいったいどれくらいいるのでしょうか。たとえば、二〇一一年三月一一日に東日本大震災が起こり、多くの方々が津波により亡くなられました。ところが、その津波について学んだ方はほとんどいないのではないでしょうか。


 日本人にとって海はなじみが深いにもかかわらず、日本の学校教育における海洋教育の位置づけは非常に低く感じます。かく言う私も、小学生から高校生までの間は海に関して学ぶ機会は無く、大学に入って海洋学を学んで初めてその重要性を認識したものです。現時点でも、文部科学省が作成している学習指導要領(文部科学省ウェブサイトの http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/ から入手できます)には、小学校・中学校では海に関する記述はほとんどありません。高校の地学に至ってやっと登場しますが、それも地質学や天文学の記述に比べるとはるかに少ないのです。こんな状況で、海に囲まれた国の国民として良いのかという疑問を私はずっと持ち続けていました。


 最近、日本海洋学会などの海洋に関する団体が積極的に活動して海洋教育の重要性を訴えてきており、政府レベルでも少しずつ改善の様子が見られてはいます。しかし、教育の現場、さらには一般国民の間にはまだまだ海洋教育は浸透していないように思います。


 私は海洋観測船に計二〇回乗り、主に熱帯の海を観測してきました。その熱帯の海と空はとても美しく、また研究テーマとしても興味深いものでした。その海の現場と学問の面白さを世の中に伝えることができれば、そしてより多くの人に海に関心を持っていただければと思い、このたびペン(今の時代はキーボードですが)を執ることにしました。


 このような背景から、この本の位置づけとしては海洋学の専門書ではなく、読み物として通読できるような入門書とし、数式はほとんど使いませんでした。また、読者の海に対する興味が深まるように、海洋学の新しく興味深い研究成果を取り入れることを心がけて執筆しました。


 なお、私の専門が海洋物理学(海のさまざまな現象を物理学的な観点から研究する学問)であることから、内容がほとんど海洋物理学になっています。しかし、海洋学は物理だけでなく、化学や生物、地質などさまざまな分野から成り立っています。したがって、もし海洋物理学以外の海洋学の分野にご興味をお持ちの方は、それぞれの分野で良書が多数出版されていますので、そちらを参照していただければと思います。


 海は一見すると、海水があるだけの単調な姿に見えますが、実はとても変化に富んでいて面白いものです。そしてその変化は地球環境のみならず、経済活動にも影響を与えています。それを理解することは我々日本人にとって、とても重要です。本書を読むことで、海の面白い姿、そしてその重要性が多くの読者に伝わることを願っています。


 なお、本書の執筆に当たっては、本文の全部もしくは一部のレビュー、および資料や図表の提供などで、次の皆様にご協力いただきました。深く感謝いたします。


(五十音順、敬称略)荒木健太郎、石田明生、石原靖久、市川洋、伊藤進一、大島慶一郎、佐々木英治、佐藤孝子、竹内謙介、中村啓彦、野中正見、長谷川拓也、深町康、福島毅、細田滋毅、堀井孝憲、升本順夫、茂木耕作、安田珠幾、山形俊男、早稲田卓爾


 最後に、本書の執筆のチャンスを与えてくださった講談社の皆様に感謝いたします。

著者 柏野祐二(かしの・ゆうじ)

1963年生まれ。博士(地球環境科学)。北海道大学大学院理学研究科修士課程修了、北海道大学大学院地球環境科学研究科にて博士号取得。現在、海洋研究 開発機構地球情報基盤センター技術主幹。気象予報士。主な研究内容は、西部熱帯太平洋における海洋循環とその変動。海洋地球研究船「みらい」に首席研究員 として10回乗船するなど、計20航海、600日以上海洋観測船に乗船して海洋観測を行った。観測のかたわら多数の写真を撮影し、科学技術団体連合主催 「科学技術の『美』パネル展」にて、2011年から3年連続最優秀賞受賞。著書に『海洋地球研究船「みらい」 とっておきの空と海』(幻冬舎)がある。

[B1974]

海の教科書 波の不思議から海洋大循環まで

柏野祐二

数千年かかって地球を巡る海洋大循環、日本の気候に影響を及ぼすエルニーニョ。海の様々な現象を知ることで地球の素顔が見えてくる!

定価 : 本体1,160円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257974-2

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