地球はなぜ「水の惑星」なのか

地球はなぜ「水の惑星」なのか

唐戸俊一郎(からと・しゅんいちろう)

水の「起源・分布・循環」から読み解く地球史

まえがき

 地球はよく「水の惑星」と呼ばれます。それは地表の大部分が海でおおわれているからですが、海水の量は質量にして、地球全体の約0.023%にすぎません。しかし、少量ですが、この水が地球をユニークな惑星にしているらしいと考えられています。例えば、今のところ生命が発生したことが確認されている惑星は地球だけです。また、堅い岩盤(プレート)が海嶺(かいれい)で生成され、海溝で地球深部に戻っていくというプレートテクトニクスという様式の地質活動が長いあいだ起きている惑星も地球だけです。このどちらも水のおかげである可能性が高いのです。


 そこで、多くの科学者は、地球の水はどこからきたのか、地球には海水の他にどれだけの水があるのか、地球内部に水があるとすればどのように循環しているのか、という問題に挑んできました。水に関する問題が解明されれば、なぜ地球が他の惑星と違っているのかを理解できるようになる、と期待できるからです。


 地球の水についての研究では、地表に海水がいかに安定に存在するかが問題にされることが多いのですが、地球内部の水も無視できません。地球内部は質量にして海水の5000倍近くもあります。したがって、もし地球深部の物質がある程度の水を保持できるなら、地球内部は巨大な水の貯蔵庫となりえます。実際、ここ20年くらいの研究で、地球深部の物質は多量の水を蓄えうることが明らかになりました。そして、実際の地球内部の水の分布も推定されるようになったのです。その結果、地球内部には海水よりずっと多量の水があることがわかってきました。また、水が地球内部でどのように循環しているのかも、かなりの程度わかりつつあります。どうやら地表にある海水も、地球深部における水の循環と密接な関係をもっているようです。


 本書では、まず、宇宙でのいろいろな元素の合成から出発し、地球などの惑星がその形成時にどのようにして水を獲得したのかを説明した後、地球(や他の惑星)内部の水について考えます。惑星形成時や地球深部の水については最近その理解が進んだのですが、手に入る試料はごくわずかなので、これらの問題を直接に調べることは困難です。そこで、科学者はいろいろな手がかりをたよりに、ゆたかな想像力を駆使して仮説をたてます。そして、様々な観測データと照らし合わせ、仮説のもっともらしさを検証していきます。ちょうど、シャーロック・ホームズが謎を解くように。


 謎を解くには、いろいろなデータを集めることが大事です。地球のことを理解するためには、地球だけでなく、地球に似た他の惑星のデータが得られるととても助けになります。もっと広い視野で地球を見ることができるからです。最近、たくさんの系外惑星(太陽系の外にある惑星)が見つかってきました。その中には、地球のように少量の水をもち、生命を育む惑星があるかもしれません。地球の水の謎が解けてくると、どのような条件を満たすと地球のような惑星ができるのかも想像できるようになるでしょう。


 本書は、いくつかの機会に私が行った一般向け講演に基づいたもので、地球や地球型惑星の水について、一般の読者(高校生程度の知識をもち科学に興味のある人)を対象にして、解説しました。これまでに得られている知識を紹介するだけでなく、科学者がこのような問題にどう取り組んでいるのかを解説することにも重点をおきました。地球の水についての問題にはいろいろな分野の観測、実験、理論を総合して急速に理解が進んではいますが、まだわからないことが多く残されています。本書が、一般の方々の地球惑星科学への関心を高めることに役立ち、読者の中からこのような謎解きに挑戦する人が出てくることを期待しています。

唐戸俊一郎(からと・しゅんいちろう)

1949年、福岡県生まれ。1968年、東京大学入学、1977年、東京大学理学博士。1989年、アメリカに移住。ミネソタ大学教授を経て、現在イェール大学教授。地球惑星物質の研究を通して地球や惑星の起源やダイナミクスを理解することを目指し、ミクロとマクロを結ぶ学際的な研究を続けている。専門論文の他に『レオロジーと地球科学』(東京大学出版会)、“Rheology of Solids and of the Earth”(Oxford University Press)、“Deformation of Earth Materials”(Cambridge University Press)など編著書多数。日本学士院賞、ラブ・メダル(ヨーロッパ地球科学連合)、レーマン・メダル(アメリカ地球物理学連合)などを受賞。

[B2008]

地球はなぜ「水の惑星」なのか 水の「起源・分布・循環」から読み解く地球史

唐戸俊一郎

水――この最も身近な液体が、地球最大の謎だ。水の「起源・分布・循環」が、地球史を読み解く鍵となる。地球科学の最前線を追う。

定価 : 本体1,000円 (税別)

ISBN : 978-4-06-502008-1

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