カラー図解 古生物たちのふしぎな世界

カラー図解 古生物たちのふしぎな世界

土屋 健(つちや・けん)
協力:田中源吾(たなか・げんご)

繁栄と絶滅の古生代3億年史

 あなたがご存知の古生物は何でしょう?

 え?

「そもそも『古生物』とは何か?」 ですって?


 では、言い換えてみましょう。今ではもう絶滅して、化石だけでその姿を見ることができる生物は何か思い浮かびますか?
 何でも良いです。図鑑や博物館で見るコがいるでしょう? そうです。そのコです。さあ、名前を挙げてみてください。
「ティラノサウルス!」
「マンモス!」
 こうした名前が登場するかと思います(ここでいきなり、「アノマロカリス!」「イノストランケヴィア!」といった名前を挙げた方は、すでにかなり“こちら側”の人です)。

 おそらく多くの人々が名前を挙げるであろう「ティラノサウルス」は、今から7200万年前から6600万年前、中生代白亜紀という時代の末期に北アメリカ大陸で暮らしていた肉食性の恐竜です。カレは、“古生物たちの社会”では、啓蒙普及の総旗艦。古生物のイメージを代表し、ワクワク・ドキドキ感を広く伝える広告塔でもあります。戦艦でいうならば、「大和」のようなもの。日本史でいうなれば「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」のような存在。他の追随を許さない圧倒的な人気者です。
 しかし、もちろん、戦艦が大和だけではなく、日本史に現れる武将が織田信長たちだけというわけではないように、ティラノサウルスやその他の恐竜たちが古生物のすべてというわけではありません。例えば、先に挙げた「マンモス」も立派な古生物。でも、本書では、もっと古い時代の生物の物語に焦点を当てます。

 私たちが暮らすこの星の歴史は、大きく二つの時代に分けることができます。一つは、先カンブリア時代。もう一つは、顕生累代です。
 先カンブリア時代は、地球の歴史の88パーセントを占めます。約46億年前の地球誕生から、約5億4100万年前までの歴史です。この時代につくられた地層からは、目立った化石がほとんどみつかりません。一般的に知られている最古の化石は、今から約35億年前の地層からみつかっていますが、とっても小さな顕微鏡サイズ。以降、先カンブリア時代の大半でみられる化石は、とても微小で、シンプルなものです。先カンブリア時代の末期になって、ようやく肉眼でも確認できるサイズの生物が登場しますが、この生物に関しては謎が多く、素性もよくわかっていません。
 一方の顕生累代は、約5億4100万年前から、現在までの時代です。「生物が顕われる時代」という文字の通り、「化石によって生物が確認できる時代」です。微小な生物から、恐竜のような巨大な動物まで、さまざまな動物の化石がみつかります。
 顕生累代は、三つの時代に分かれています。新しい方から「新生代」「中生代」「古生代」です。このうち、新生代はいわゆる「哺乳類の時代」。約6600万年前から現在まで。哺乳類が地上の覇権を確立し、今日に至る世界を築いてきた時代になります。中生代はいわゆる「恐竜の時代」。約2億5200万年前から約6600万年前まで。ティラノサウルスは、この時代の末期に現れました。この二つの時代の生物の多くは、まとめて「現代型生物群」と呼ばれています。恐竜たちの姿は、とても「現代型」に見えないかもしれません。しかし、顕生累代約5億4100万年間の歴史の中では、彼らはとても“私たちに近しい存在“なのです。
 顕生累代をつくる三つの時代の中で、最も古い時代が「古生代」です。約5億4100万年前から約2億5200万年前まで、実に2億8900万年間にわたってつづきました。顕生累代の半分以上を占めるこの時代の生物たちの多くは、「古生代型生物群」と呼ばれています。すなわち、古生代には中生代以降に見られる世界とはちがった、独特の世界が広がっていたのです。
 古生代という時代は、実にダイナミックであり、ドラマチックです。
 なぜならば、この時代には生態系の覇権をめぐる動物たちの栄枯盛衰がとても激しく繰り広げられていたからです。新生代の哺乳類や、中生代の恐竜類に相当するような、時代を通しての圧倒的な強者が存在しないのです。
 古生代がはじまったとき、生命活動の舞台は海に限定されていました。当時の陸には荒野が広がるばかりで、とても生命が暮らしていけるような環境ではなかったのです。当時の海で他者を圧倒する存在だったのは、節足動物の仲間。節足動物は、現在でいえば、カブトムシやクワガタムシなどの昆虫類、エビやカニなどの甲殻類を含むグループです。このときの節足動物で、とくに覇を唱えていたのは、「アノマロカリス」という珍奇な動物。この本の表紙カバーにも描かれている、大きな触手と大きな眼、ひれをもつ動物です。我らが脊椎動物の祖先であるサカナもいることはいましたが、弱々しい存在で、アノマロカリスなどの大型の節足動物のよき獲物だったとみられています。
 その後、脊椎動物は長い雌伏の時代をすごします。その間に、節足動物を中心とした無脊椎動物間の生存競争が続けられ、さまざまな形状の種類が登場しては、滅びていきました。
 古生代の半ばになると、脊椎動物はある“武器”を獲得し、生態系の頂点に向けての“進撃”を開始。海洋世界を制覇すると、その勢いのまま陸上進出も展開します。こうしてつくられた地上世界では、脊椎動物の中でも私たち哺乳類の祖先を含む「単弓類」というグループが支配権を確立しました。先ほどアノマロカリスと並んで名前を挙げた「イノストランケヴィア」は、そうした支配者の中でもとくに力をもっていた動物です。
 恐竜時代が始まる前、地上の支配者はのちに恐竜たちを生み出す爬虫類ではなく、むしろ私たち哺乳類の親戚のようなものたちだったのです。
 古生代2億8900万年間にいったい何があったのか?
 これからあなたを諸行無常・盛者必衰の世界へと案内しましょう。多くの古生物がイラスト入りで登場します。読後までには「あ、このコが好きだなあ」と、お気に入りの古生物を一つ、みつけていただければ、ナビゲーターとしての筆者にとって、これにまさる喜びはありません。

 本書は金沢大学の田中源吾助教にご協力いただいております。紹介すべき古生物の選抜や、原稿の確認など、お忙しい中にお時間をいただきました。また、迫力のあるイラストは、月本佳代美さんと服部雅人さんによるものです。その他、標本画像に関しては、国内外の研究者の方や博物館にご協力をいただきました。たくさんの方々のご協力があって上梓することができました。お礼申し上げます。ありがとうございます。
 もちろん、今、こうして本書を手にとっていただいているあなたにも、特大の感謝を。数ある本の中から、本書を手にとっていただいたことに、まずお礼を申し上げます。
 恐竜登場以前にどのような古生物がいたのか。「恐竜だけではない古生物のおもしろさ」をご堪能くださいませ。

2017年5月

土屋 健

土屋 健(つちや・けん)

オフィス ジオパレオント代表。サイエンスライター。埼玉県生まれ。金沢大学大学院自然科学研究科で修士号を取得(専門は地質学、古生物学)。その後、科学雑誌『Newton』の記者編集者、サブデスク(部長代理)を経て2012年に独立し、現職。近著に『古第三紀・新第三紀・第四紀の生物』(上下巻:技術評論社)、『世界の恐竜MAP 驚異の古生物をさがせ!』(エクスナレッジ)、『ザ・パーフェクト』(誠文堂新光社)など多数。

協力:田中源吾(たなか・げんご)

1974年、愛媛県生まれ。島根大学理学部地質学科卒業。博士(理学)。専門は古生物学。群馬県立自然史博物館・学芸員、海洋研究開発機構・研究技術専任スタッフ、熊本大学合津マリンステーション・特任准教授を経て、現在、金沢大学国際基幹教育院・助教。著書に『化石の研究法』(共立出版、分担執筆)、『古生物学事典』(朝倉書店、分担執筆)。

[B2018]

カラー図解 古生物たちのふしぎな世界

著=土屋健,
協力=田中源吾

恐竜が登場する遥か昔の、生物の栄枯盛衰がくりかえされた「古生代」を、古生物のカラーイラストをふんだんに用いて語り尽くす。

ISBN : 978-4-06-502018-0

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