「香り」の科学

「香り」の科学

平山令明(ひらやま・のりあき)

匂いの正体からその効能まで

はじめに

 良い匂いのことを「香り」と言います。私達は日常的に「香り」を感じ、そして利用しています。読者の中には、アロマテラピーという言葉をご存じの方も多いと思いますし、良い「香り」を積極的に生活に取り入れている方も少なくないと思います。どの香水をつけるべきか悩む人はそれほど多くないかもしれませんが、シャンプー、石鹸、入浴剤、そして化粧品などを選択する時に「香り」が製品選択のポイントになる人は意外と多いのではないでしょうか。

 花が好きな人は、色や形の美しさだけでなく、その「香り」にも魅了されます。良い「香り」は私達の生活、特に精神生活を豊かにしてくれます。実は、何千年も前から人類は「香り」を利用してきました。

 ところが私達が「香り」についてまとまって学ぶ機会はほとんどありません。別の言い方をすると、嗅覚について私達が学ぶ機会があまりないということです。私達が「香り」を上手に利用したり、安心して楽しむ上で、「香り」に関する科学的知識を持つことは大切です。本書は「香り」についておもに科学的な側面からお話しすることを目的にしています。「香り」とは何か、私達はどのように「香り」を感じるのか、良い「香り」を私達はどのように手に入れてきたか、「香り」は私達にどのような影響を与えるのか等々についてお話しします。

「香り」は言葉に表すことが難しい感覚ですが、私達の心に直に響いてくる感覚です。皆さんも経験されているかもしれませんが、ある「香り」が過去の記憶を一瞬にして蘇らせることすらあります。また良い「香り」を嗅ぐと私達の心はすぐさま穏やかになります。私達が体験する「香り」に特有のこうした効果というものには科学的根拠があるのでしょうか? 嗅覚は他の感覚と大きく異なる特徴を持っていますが、それらに関する研究は他の感覚に比較して非常に遅れており、多くのことが残念ながら未解決です。本書では、「香り」にまつわるこれら独特の現象が、現在どのように理解されているかについてもご紹介したいと思います。

 実は「香り」は化学物質であり、それを正しく理解する上では化学的な理解が必須です。そこで、「香り」の色々な側面を理解する上で最小限必要な「香りの化学」についても紹介しました。特に、アロマテラピーや香水に興味を持っている読者がさらに「香り」に対する認識を深め、安全で効果的な「香り」の利用を考える上で、本書で述べられる「香りの化学」の基礎は大いに役に立つと思います。

 また、こうした知識は「香り」の楽しみの幅をこれまで以上に広げる上でもきっと役に立つと思います。少なくとも「香り」の分子に関する知識は、自分にあった「香り」とは一体何かを理解し、生活に彩りと変化を添えるための「香り」選びの助けになると信じます。

平山令明(ひらやま・のりあき)

1948年、茨城県生まれ。1974年、東京工業大学大学院修了。ロンドン大学博士研究員、協和醗酵工業(株)東京研究所主任研究員、東海大学開発工学部教授、東海大学医学部教授、東海大学糖鎖科学研究所教授を経て、2016年より東海大学先進生命科学研究所所長。理学博士。現在のおもな研究課題は、コンピュータ科学を駆使した、より効果的で、より安全な医薬品の開発。さらに、人間のQOL向上につながる有用物質の探索・創製にも興味を持って研究活動を展開している。著書に『暗記しないで化学入門』『実践 量子化学入門』『熱力学で理解する化学反応のしくみ』『分子レベルで見た薬の働き 第2版』などがある。

[B2020]

「香り」の科学

平山令明

「香り」とはいったい何か? 人類はどのようにそれを感じ、抽出し、利用してきたのか? 「香り」を科学で徹底的に解き明かす。

ISBN : 978-4-06-502020-3

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