佐藤文隆先生の量子論

佐藤文隆先生の量子論

佐藤文隆(さとう・ふみたか)

干渉実験・量子もつれ・解釈問題

はしがき

量子力学は、大学の理工系に進むと必ず学ぶ基礎科目である。「LED」も「超弦理論」もみな量子力学が基礎であり、その応用である。提唱以来90年以上経過した現在、現代社会の情報通信や高度医療機器を支える技術の基礎であり、いまさら“謎の”とか“理解を超える”とか“想像を絶する”などという形容詞が似合わないほど、コモディティ(日用品)化した存在になったともいえる。

ところが量子力学を学習した多くの学生は初め、何か腑ふに落ちないモヤモヤしたものを感じ、それを先輩たちにぶつけると、ただ「先を勉強しろ」と諭され、確かに先にいくと痛みのない傷として忘却し、あれは大人になる通過儀礼のようなものだったかと納得する。本書はこの「モヤモヤ」の傷をいまだに抱え、感じている人を意識して執筆した。この「モヤモヤ」病は自分自身の物理学人生そのものでもあるので、本書の記述が自分の研究人生を反映したものになることをお許し願いたい。

序章と第1章はこの課題での私自身の問題意識であり、序章では本書の第一の目的である「参加者」実在論という全体を貫く視点を提起する。第2章と第3章は理工的に量子力学の基礎を復習したものであり、第3章では邦書でこれまであまり解説がない量子力学実験のホットな話題を紹介する。ほとんどは、量子光学のテクノロジーの進歩で可能になった実験である。アインシュタインやボーアのような巨匠たちに思考の深さでは及ばない我々凡人でも、手にした技術のおかげで彼らよりもはるかに高い境地にいるのである。近年の量子力学実験を推し進め、量子力学のさらなる発展、応用への道を拓くときがきたことを見る。これが本書の第二の目的である。

本書の第三の目的は、量子力学につきまとう「モヤモヤ」をこの理論を改良・変造する単なる動機づけとするのではなく、物理学や科学の「メタ理論」を掘り下げるためのトリガーにすることである。物理学内にとどまらず社会の中での科学の位置づけに関わっているという論議である。この論議は第4章でこれまでの「量子力学論議」を俯瞰したうえで、理論的・論証的というよりは、第5章と終章において随筆風に記述した。

量子力学は数理的理論であり数式を使った説明が不可欠であるが、できるだけ多くの人に私の問題意識を伝えたいと考えて、数式を用いた部分は本文から切り離して説明するよう努めた。

佐藤文隆(さとう・ふみたか)

1938年、山形県生まれ。1960年、京都大学理学部卒業。京都大学教授を経て、現在同大学名誉教授。専攻は一般相対論、宇宙物理学。トミマツ‐サトウ解の発見など多くの業績をあげた。著書に『アインシュタインの反乱と量子コンピュータ』(京都大学学術出版会)、『孤独になったアインシュタイン』(岩波書店)、『量子力学は世界を記述できるか』(青土社)など。

[B2032]

佐藤文隆先生の量子論

佐藤文隆

量子力学の完成から90年。アインシュタインやシュレーディンガーが想像もしなかった最新の「干渉実験」が、量子力学の本質を映し出す!

ISBN : 978-4-06-502032-6

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