カラー図解 新しい人体の教科書 下

カラー図解 新しい人体の教科書 下

山科正平(やましな・しょうへい)

はしがき

『カラー図解新しい人体の教科書上』を刊行してから、ちょうど6ヵ月遅れて下巻を世に送る運びとなった。本書全般を通じての執筆上の考え方については、上巻の「はしがき」に縷々と披瀝させていただいた。そのうえで、あえて追記しておきたいことがある。

長らく医科大学にあって、基礎医学の研究室で生活してきたが、研究室には臨床の若い医師たちの出入りが多い。病気の本態に関する最新の考え方、治療法の進歩など、隣接する巨大病院で今まさに展開されている現代医学の実情について、お茶を飲みながら耳学問できるのは非常な楽しみであった。ときには、彼らの問題提起から書物を紐解きなおす機会もたくさんあり、これが何物にも代えられない刺激であった。

その一方で、専門医を志向する若い医師たちが、次第に専門分野の虜になる反面、全身についての洞察が希薄になるのではとの老婆心が生まれることもないわけではない。このような危惧もあり、筆者が担当していた低学年の学生を対象にした卒前教育にあっては、1個の細胞を目にしながらも、全身との関係を考えることの重要性を熱く語ったものである。特に、人体解剖実習にあっては、入門して日の浅い若い医学生に、献体されたご遺体を前にして、すべての要素を統合的に見ていくトレーニングの場であることを強調してきた。すなわち「木を見たら森を考えよ」と。

人体についてのこうした考え方は、なにも医学教育にのみ求められるものではなく、人体について真剣に勉強しようとするすべての方々に共通したベースでもあるはずだ。

そこで本書の執筆にあたっては、局所と個体全体との連繋を忘れずに、できる限り“ひとつのもの” としての人体を見ていただくことに腐心したつもりである。個体全体の中で人体の各要素はどのようなしくみで機能を発現させているのか? これは人体を考察するうえでの究極の課題でもある。そのためこの課題の追究とは、解剖学、生理学、それに進歩の著しい分子細胞生物学の成果も集約したうえで、人体を統合的に俯瞰する膨大な作業といわざるを得ない。しかも、下巻でカバーすべき領域は、構造もさることながら機能に力点を置いて語るべき要素がとくに大きい。このような背景のもと、解剖図やら模式図、図解を多用して、読者のご理解をいただけるよう配慮を施したのは、上巻を引き継いで本書の大きな特色になっている。

執筆を進めながら、かくも膨大な領域を、筆者一人だけで完遂しようとするのはいささか無謀に過ぎるのではないか、との謗そしりも聞こえてきそうな思いを抱いたのは事実である。また、日頃の不勉強ゆえに、心細い思いをしながら記述を進めてきたところもある。そのため、特に神経系に関する第10、11、12章については、日頃敬愛してやまない先輩、河野邦雄名誉教授(筑波大学)にご意見を仰いだ。いただいたいくつもの貴重なご助言を本文に反映させ、これにより、安心して世に送り出すことができた。誠に感謝に堪えない。

上巻の刊行後、多くの読者からいただいた反響のひとつに、本書の図が見事だというお声掛けがあった。解剖図というのは余り忠実であるとかえって分からなくなる。そのため実物に忠実ではあっても、かなり単純化した創作画の要素が大きい。また、単純化のプロセスが出来上がった解剖図に命を吹き込んでくれる。その様なわけで下巻でもイラストレーターの金井裕也、千田和幸、本庄和範の三氏にお願いして、素晴らしい図を作成していただいた。美的な感覚と科学性溢れる洞察に裏打ちされて、説得力溢れる生き生きとした解剖図が出来上がったと確信している。我が国の科学図書の水準を大きく高揚させる素晴らしい挿図は、パラパラとめくっていただくだけでも、その意図が十分に伝わるはずだ。しかし、穴のあくほど凝視していただけば、更なる味わいも滲みでてくるに違いない。

機能面に力点を置いて解説を進めるにあたって、イラストも多用させていただいた。しかし生き物のからだは造化の神のなせる業であって、それを余りにも単純化すると、その枠には納まらない例外なども頻発してきて、単純化には限界もつきものである。

また、領域ごとに軽重をおき、できる限り平易な説明に徹したが、それゆえに発生しがちな意味の取り違えにはくれぐれも留意した。それにもかかわらず、思いがけない誤りやら認識の違いなどもあることを心配している。読者より忌憚のないご叱正や助言をいただいて、完成度を高めたいと念願している。

熱意溢れる講談社ブルーバックスの各位に加えて、先にあげたイラストレーター三氏との合作として、ようやく書物として日の目を見ることができた。本書を通じて、自分のからだへの関心をさらに一層高めていただけるなら、このうえない喜びである。

2017年9月                 著者記す

山科正平(やましな・しょうへい)

北里大学名誉教授。1941年北海道生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学難治疾患研究所、京都大学助教授を経て、1981年より北里大学医学部教授として、解剖学教室を主宰。研究領域は顕微解剖学。電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡など多彩な顕微鏡法を駆使して、細胞分泌の機構、分泌器官の組織発生機構の解明にあたる。1994年、日本顕微鏡学会賞(瀬藤賞)受賞。日本顕微鏡学会会長の他、日本解剖学会、日本組織細胞化学界の運営にあたる。2007年、北里大学を定年退職後、青山学院大学、埼玉医科大学で客員教授を務める。難解な解剖学の平易かつ明快な講義には定評がある。著書に『新・細胞を読む』『細胞発見物語』(いずれも講談社ブルーバックス)ほか。

[B2024]

カラー図解 新しい人体の教科書 下

山科正平

難解と敬遠されがちな解剖生理学を豊富なカラー図版と平易な文章で徹底的にわかりやすく解説。医学生ならびコメディカル関係者必読!

定価 : 本体2,000円 (税別)

ISBN : 978-4-06-502024-1

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