ついに初観測! 重力波とは何か?

  • 2016/02/12

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    ついに初観測!
    重力波とは何か?

    きょう未明、大ニュースが飛び込んできました。アメリカのカリフォルニア工科大学、マサチューセッツ工科大学などを中心とする国際研究チーム「LIGO」(写真はルイジアナ州リビングストンの観測所 Credit Caltech/MIT/LIGO Lab)が、世界で初めて重力波を観測したというのです。新聞各紙の一面で科学ニュースが大きく報じられたのは、ヒッグス粒子の発見以来でしょうか。

    でも、なぜこんなに大騒ぎしているのか、もうひとつわからないという方もいらっしゃるかと思います。そこで、本日はブルーバックスのバックナンバーから、重力波についてわかりやすく説明されているところを抜きだしてお届けします。重力波については近日、さらにくわしくお伝えする予定です!

     

    『ゼロからわかるブラックホール』(大須賀健 著 2011年刊行)より

     

    重力波とは何か


     重力波とは何なのか? 簡単にイメージできるような説明をします。

     物体が何もないとき、空間は歪まず平坦になっています。一方、物体が存在すると、周りの空間は歪みます。この空間の歪みは、ゴム膜の凹み具合として理解できます。図1の左上と左下のように、物体が存在しないとゴム膜はピンと平らに張っていて、物体があると凹むわけです。

     さて、ここまでは物体が静止している状況を考えていますが、物体がゴム膜の上を動く(たとえばゴム膜上の物体を手で揺らす)と、何が起こるでしょうか? ゴム膜は、振動することになります。もう少し正確に表現すると、ゴム膜の凹凸が波となって、外側に向かって伝わっていくのです。水面に波紋が広がる様子を思い浮かべるとよいでしょう。ゴム膜の凹みは空間の歪みを表していますから、空間の歪みが外側に伝わっていくことになるのです。これが重力波です。




    図1 重力波が生じるしくみ

     

    なぜ研究者は重力波を追いかけるのか


     重力波は一般相対論が予言する現象であり、ニュートン重力では決して説明することができません。このため、アインシュタインの最後の遺産ともいわれています。

     あとで解説しますが、重力波の検出は電磁波の検出と比べてきわめて難しいことがわかっています。それにもかかわらず、ブラックホールの研究者が重力波の検出を夢見ているのはなぜでしょうか? それは、ブラックホールの誕生の瞬間を調べる唯一にして最高の手段と考えられているからです。ブラックホールが誕生する瞬間、強い重力波が発生します。それを捉えることで、ブラックホールの形成メカニズムを直接調べることができるのです。

     重力波には、ブラックホールの研究においては本質的に電磁波(電波やX線)より優れている点があります。たとえば巨大な星が超新星爆発を起こした状況を考えると、ブラックホール誕生の現場は大量のガスに包まれていると予想されます。すると、放射された電磁波は周囲のガスによって吸収されてしまうことでしょう。それに対し、重力波は減衰することなく伝搬するので、厚いガスに埋もれたブラックホール誕生の瞬間を直接見ることができるのです。

     さらにつけ加えると、電磁波はブラックホール周囲のガスから放射されるので、ブラックホールの情報を間接的にしか伝えてくれません。一方、重力波は空間の歪みの情報ですから、より直接的にブラックホールを調べることが可能なのです。

     

    なぜ重力波の検出は難しいのか


     さて、ブラックホール天文学における重力波の重要性をわかっていただいたところで、重力波の検出に話を進めましょう。まずは重力波が到達すると何が起こるのかについて説明します。さきほどの図1のように物体が動くことによって発生した重力波は、光の速度で伝わります。到達すると空間が歪むことになります。空間が歪むと、図2のようなことが起こります。


    図2 重力波の到達による空間の伸縮


     ある円を想定し、そこに重力波が到達したとしましょう。すると、円は横長になって戻り、次に縦長になって戻るということを繰り返します。縦方向の空間と横方向の空間が交互に伸び縮みするのです(物体の揺れ方によっては斜め方向にも伸び縮みしますが、ここでは省略します)。ここで登場した円は仮想的に空間に印をつけたものであり、実際の物体である必要はありません。空間そのものが伸縮し、ある2点間の距離が変わるということを理解してください。たとえばですが、円の12時の地点に地球があり、6時の地点に月があるとすると、地球と月の距離が近くなったり遠くなったりを繰り返すわけです。

     この空間の伸縮を検出するのが重力波検出器です。重力波検出器の原理は簡単です。二つの方向をたえず見張っておくだけでいいのです。図3を見てください。レーザーを90度ずれた二つの方向に飛ばして、鏡までの距離を見張っています。仮に分離器から二つの鏡までの距離が同じだとしましょう。重力波がやってくると、空間の伸縮が起こります。すると、一方の鏡までの距離が短くなり、もう一方の鏡までの距離が長くなります。この距離のずれを検出することで、重力波が到来したことを知ることができるのです。非常にシンプルな原理です。


    図3 重力波検出器の原理


     しかし言うは易し、行うは難し。原理は簡単ですが、実際に重力波を検出するのは至難の業です。観測されることを期待されている重力波は、ほんのわずかにしか空間を伸縮させません。太陽と地球の間が原子1個分、もしくはそれよりずっとわずか(たとえば原子の100分の1程度)にしか伸び縮みしないのです。重力波の検出には、想像を絶するほど精密な装置が必要なのです。

    重力波検出器とはどのようなものか


     このようなわずかな空間の伸縮を捉えるため、重力波検出器には幾多の工夫が施され、またノイズを減らすための努力がなされています。くわしい説明は省きますが、上の図3のようにレーザーを二つに分けて鏡で反射させるというのも工夫の一つです。また、鏡までの距離も重要になります。100キロメートルを超える距離が理想的という見積もりもありますが、そこまで巨大な装置の建設は現実には困難です。東京都三鷹市の国立天文台にある「TAMA300」は、300メートルの距離を確保して技術開発に貢献し、世界の先駆けとなりました(図4)。


    図4 重力波検出器の先駆けとなったTAMA300


     また、岐阜県の神岡鉱山は、ニュートリノを捉えるスーパーカミオカンデで有名ですが、ここに3キロメートルもの距離を確保する巨大重力波検出器を建設する計画もあります。LCGT計画(愛称「かぐら」「KAGRA」)です(図5)。そのほかにも多数の計画が世界中で進められています。
    さらに、レーザーの発信・受信装置と二つの鏡を別々の人工衛星に搭載して宇宙空間に浮かべ、1000キロメートルもの距離を確保しようという壮大な計画もあります(たとえばDECIGO)。


    図5 巨大重力波検出器LCGT(かぐら)の概念図


     しかし装置の性能を向上させても、重力波のあまりに微弱なシグナルをノイズの中から見つけ出すのはまだまだ困難です。そのためもあって、到来すると予想される重力波の性質をあらかじめ調べておこうという研究も行われています。理論的な予想があれば、ノイズの中から意味のあるシグナルを見つけ出すことが比較的容易になるからです。
     

    中性子星の合体で発生する重力波をシミュレーションする


     ブラックホールの形成に伴う重力波の発生を調べるため、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションも行われています。超新星爆発の研究も進められていますが、ここでは中性子星どうしの合体によるブラックホール形成の研究を紹介します。中性子星どうしの合体も、ブラックホールを形成するメカニズムとして有力視されているのです。
     中性子星には質量の上限値があります。二つの中性子星が合体してその上限値を超えると、もはや中性子星として存在することは不可能で、ブラックホールになってしまうのです。
     図6は中性子星どうしが合体してブラックホールが形成される様子です。左は二つの中性子星が少し離れて互いの周りを回っている状況です。徐々に距離が近づき、まさにブラックホールが誕生する直前が右の図です。このとき、強い重力波が発生するのです。左右の図の下にある膜は、空間の歪みをゴム膜の凹みのように表示しています。ブラックホールが誕生すると、空間が大きく歪むことがわかります。


    図6 中性子星どうしの合体によるブラックホール形成のシミュレーション(京都大学 関口雄一郎氏提供)


     このシミュレーションでは、一般相対論を数値的に解いて、中性子星の運動や変形、ブラックホールの誕生、そして発生する重力波を計算しています。宇宙物理学で最も難解な研究課題の一つで「数値相対論」と呼ばれます。この分野をリードするのが柴田大氏(京都大学)であり、図6は彼のグループの関口雄一郎氏(京都大学)らの研究成果です。
     このようなシミュレーションで重力波の性質をあらかじめ調べておき、今後、高性能な重力波検出器が稼働すれば、一般相対論を検証しつつ、ブラックホール誕生の瞬間に迫ることができるでしょう。重力波が検出されれば、エディントンが光の曲がりを証明したときのように、新聞の一面を飾るのではないかと私は予想しています。ノーベル賞という声も聞こえてくるのではないでしょうか。

    (一部、改変しています。文中の見出しは今回、編集部がつけました)

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