ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

文 川端裕人

監修 海部陽介(国立科学博物館 人類史研究グループ長)

かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?
なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

(画像提供:国立科学博物館)

第21回 「アフリカ単一起源説」にも貢献した

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 豊富な化石産出量を誇り、本来なら豊穣な研究の宝庫であるはずのジャワ原人の標本は、戦前の古いものはオランダやドイツにあり、戦後に発掘されたものはインドネシア国内にあるものの、複数の研究機関に分割所蔵されて、それぞれ行き来がなかった。化石管理者どうしの仲が悪く、研究に支障が出ていた。
 しかし、最近、雪解けが起きつつある。それらの標本をほぼすべて見て綿密に調べることができた最初の研究者である海部陽介さんが、成果を論文にして公表したことで、「ほうっておくのはもったいない」と多くの関係者が気づいたからだ。

 そんな流れにあると、ぼくには見える。インドネシアでのフィールドワークにお邪魔させてもらったりして、現地の研究者と対話したりしつつの印象論ではあるが。

ジャワ原人はぼくたちのようになっただろうか

 さて、これまで説明してきたなかで、海部さんの成果は「停滞していた」と思われていたジャワ原人が「変化していた」と明らかにしたことだ。
 それも、脳容量の増大、咀嚼機関(歯や顎)の縮退など、現生人類ホモ・サピエンスから見た場合に、まさに「より人間(現生人類)に近くなる」方向に進化していた。海部さんの2008年の論文では、「継続的な進化、特殊化、絶滅についての新たな証拠」という副題がついているが、「継続的な進化」というのは、まさにこのことだ。

 アフリカの「猿人」のとあるグループから、最初のホモ属であり、最初の「原人」ホモ・ハビリスが進化したのが200万年以上前。その後、どこかの段階で原人は「出アフリカ」を果たした。
 原人の出アフリカの証拠は、グルジアのドマニシ(黒海とカスピ海にはされまた地域にある遺跡)で見つかった180万年前のドマニシ原人が、今のところ最古だ。小柄でやや原始的で、ホモ・エレクトスとの関係もいまひとつ、はっきりしていないのだが、今後、さまざまなことが明らかになってくると思うので、名前くらいは覚えておこう。というか、知っている人は知っている重要な遺跡であり、標本群だ。

 そして、ジャワ島にも、すごく大ざっぱな話だが、160万~120万年前までには、原人が定着した。そのあと、地理的にある程度、孤立しつつも、やはりホモ属らしい脳容量の増大、咀嚼器官の縮退などを経験した、というシナリオだ。

図1 出アフリカを果たした原人がアジアに到達するまで

 

 では、ここで素朴な疑問。
 ジャワ原人が、ホモ属として(ホモ・サピエンスから見て)通常の進化をしていたとわかったわけだから、そのままもっと現生人類に近づいていったら、「旧人」や「新人」と呼んでよい段階にまで達したのではないだろうか?

 ガンドンで発掘されてきた新しいジャワ原人の化石は、当初、「ソロ人」とも呼ばれ、一部研究者によって“古代型ホモ・サピエンス”と分類されていたこともあった。
 また、ジャワ原人が進化して、現在のオーストラリア先住民(アボリジニ)になったとか、北京原人から東アジアの現代人が進化したとか、そういう議論もある(あった)。
 海部さんの話を聞いていて、そのことを思い出した。

「前にも説明した、多地域進化説と呼ばれるそれぞれの地域で原人が旧人になり、さらに旧人が新人になった、という考えです。今、支持する研究者はきわめて少数派になっています。定説はアフリカ起源説で、僕の研究もそっちを支持する結論になっています。ジャワ原人も進化したと言いましたけど、そのうちのいくつかの特徴は、ほかの人類には見られない独特のもので、それがどんどん顕著になっていくんです。ジャワ原人がアボリジニの祖先なら、そういった特徴も受け継いでいるはずですが、そういうことはまったくないんです」
 海部さんの論文の「特殊化、絶滅」の部分だ。

図2 原人、旧人、新人の主な頭骨の特徴(国立科学博物館常設展示より)

 

 ジャワ原人も長い時間の中で大きく変化していた。そのうちいくつかは、ホモ・サピエンスに至る人類が経験したのと同じ方向性の進化だったが、それとは別に、ほかの地域、ほかの人類には見られない「特殊化」もあったというのである。

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文 川端裕人

かわばた・ひろと 1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ在職中に『クジラを捕って、考えた』を執筆、文筆デビュー。1997年よりフリーランス。小説作品に『銀河のワールドカップ』『星と半月の海』、ノンフィクション作品に『動物園にできること』など多数。最新刊は、一線の宇宙論研究者との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)、駆け出し声優のお仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙港(春夏篇・秋冬篇)』(早川書房)など。

メールマガジン「秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)を配信中。

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