ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

文 川端裕人

監修 海部陽介(国立科学博物館 人類史研究グループ長)

かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?
なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

(画像提供:国立科学博物館)

〔フローレス篇〕第1回 21世紀最初にして最大級の発見

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あまりにも小さな「人類」

 2003年、インドネシア・フローレス島にて、人類進化の基本認識に変更を迫る大発見があった。舞台となったのは、リャン・ブア洞窟。フローレス島西部の拠点都市として観光客が多く訪れるラブアンバジョから、西に60キロあまりの農村にある。

 人類進化の研究史上、最大級ともいわれる発見をなしとげたのは、オーストラリアとインドネシアの共同研究チーム。動物化石や石器が出ることがすでに知られていた洞窟内の地表下6メートルから、とうとう原人と思われる人類化石、それもほぼ全身が揃ったものが発掘された。
 現在では、LB1(リャン・ブア1号)と呼ばれている標本だ。

フローレス島で発見された原人の復元模型。共存していた動物たちが、背景に実物大で描かれている(提供/国立科学博物館)

 

 LB1は、頭から足の先まで全身のほとんどが揃っているだけでなく、顔面や肩甲骨など、脆くてこわれやすい骨も保存されていた。ジャワ原人で顔面の大半が残っている化石が、サンギラン17号しかないことを思い出そう。実は、広くアジア全体でもみても、顔面がある化石は稀なのである。頭蓋骨や顎の骨がいくつも発見された北京原人ですら、顔の骨は小さな破片しか見つかっていない。

 リャン・ブア洞窟での発見は、2004年、ネイチャー誌に掲載された論文で公表された。LB1をタイプ標本とするホモ属の新種ホモ・フロレシエンシス(日本語ではフローレス原人)。その存在は、研究者共同体にとどまらない世界的なセンセーションを巻き起こした。新聞やテレビにも取り上げられ、「ホビット」(トールキンの小説『指輪物語』に登場する「小さな人」の意味)というニックネームも人口に膾炙(かいしゃ)した。

 2004年の論文の要点を書き出すと──

・見つかった化石は、1万8000年から3万8000年前のもの。
・ホモ属に分類できる新種の人類(日本での用語としては「原人」)。
・身長1メートルあまりで、とても小柄。
・フローレス島という、人類史上、どの時期にも、海を渡らなければ到達できなかったところで暮らしていた。

 これらのうち、どの一つをとっても衝撃的な内容だ。

 ぼくとしては、最初の論文で主張された1万8000年から3万8000年前という、「理科」ではなく「歴史」で扱われそうな時代(日本なら旧石器時代の末期で、もうすぐ縄文時代が始まる時期!)に惹きつけられた。
 この年代は「旧人」、ネアンデルタール人がいなくなった約4万年前よりもずっと最近だ。つまり、フローレス原人は、ぼくたちにとって「会えたかもしれないのに会えなかった」別の人類の最有力候補ではないか。いや、その時期なら、すでに現生人類が島に渡ってきており、共存期間があったことも確実だともいえる!

 もっとも、早めに註釈しておくと、オリジナルの論文で述べられた1万8000年前という年代は、2016年の論文で訂正された。本稿の執筆時点で受け入れられているのは、化石骨の出土層については若くとも6万年前、そして、石器が出る地層を考慮しても、リャン・ブア洞窟にフローレス原人がいたのは5万年前までだ。

 とはいえ、やはり、超弩級の発見であることは間違いない。
ジャワ原人の研究を通してアジアの人類進化に通暁し、のちには自らもフローレス原人の共同研究者になった海部陽介さんの表現を借りると、「予想外の場所で、予想外の人類が発見された」というのが肝要な点だ。

LB1発見を伝える新聞記事(2004年10月28日付 産経新聞朝刊より)

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文 川端裕人

かわばた・ひろと 1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ在職中に『クジラを捕って、考えた』を執筆、文筆デビュー。1997年よりフリーランス。小説作品に『銀河のワールドカップ』『星と半月の海』、ノンフィクション作品に『動物園にできること』など多数。最新刊は、一線の宇宙論研究者との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)、駆け出し声優のお仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙港(春夏篇・秋冬篇)』(早川書房)など。

メールマガジン「秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)を配信中。

連載一覧

連載読み物

ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

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