ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

文 川端裕人

監修 海部陽介(国立科学博物館 人類史研究グループ長)

かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?
なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

(画像提供:国立科学博物館)

第7回 いざ、サンギランへ!

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お出迎えはサンギラン17号

 海部さんと一緒に、「サンギラン初期人類遺跡」を訪ねた。
 1996年に世界遺産になったことを記念してリニューアルされた博物館の入口には、巨大なジャワ原人の頭像が立っていた。トリニールのステゴドン(古代ゾウ)といい、サンギランの巨大ジャワ原人頭像といい、なにか脱力系の導入部である。熱帯の強烈な日差しの中で、一服の清涼剤、ともいえる(かもしれない)。

サンギラン博物館の前に鎮座する巨大な頭像。サンギラン17号の復元らしい(筆者写す)

「これ、サンギラン17号でしょうね」
 と海部さんが教えてくれた。
 17号? 仮面ライダーではないが、1号、2号と、見つかった順番に化石に番号がついている。
「サンギラン17号は、唯一、顔の部分も残っている頭部の化石なんです。あとで、模型も見られますよ」

 何十万年も前の化石だから、なかなか「顔」の部分までしっかり残っているものは少ない。ジャワ原人の場合、サンギラン17号が今のところ唯一だ。だから、ほぼすべてのジャワ原人の復元の参考にされてきた。亡くなった当人には予想もできなかったろうが、復元されたジャワ原人の代表になっている。トリニールの展示でこん棒をもっていた成人男性も、サンギラン17号の顔にもとづいて復元されたのだろう。
 サンギランの博物館にある巨大な頭部も、もちろん17号にもとづいている。ただ、茫洋とした目の雰囲気は、完全に復元頭像をつくった人の想像というか、手癖のようなものだ。顔面は化石になって残っても、やはり「目つき」まではわからない。

「タマネギ的地層」の絶大な恩恵

切り取られた地層のブロックが積み重ねられている(筆者写す)

 博物館内には、非常によく整った展示があって、ジャワ原人の発見史をたどることができる。
 前史として大きく取りあげられているのは、まず「種の起源」のチャールズ・ダーウィン。
 そして、「メンデルの法則」で知られるグレゴール・メンデルだ。
 これらの二人が、肩を並べるように大きなスペースをとっている。自然選択にもとづいた進化論や、遺伝についての理論的基礎を提供したという意味だろう。
 それに続いて、サルとヒトのミッシング・リンクとして「ピテカントロプス」を「予言」した、エルンスト・ヘッケルが続く。
 ジャワ原人の発見者デュボワの扱いはむしろ小さいのが印象的だ。これはのちにたっぷり扱うからだろう。
 ……という前ふりをしたうえで、サンギラン地域の話へと入っていこう。

 まずは、地層について。
 切り取られた地層のブロックが積み重ねられるように展示されていて、柱状図のようなものもあわせて描かれている。柱状図では、上が新しく、下が古い地層だ。この地域には展示から読みとると、300万年前から25万年前くらいまでの地層が連続的にあるらしい。

「これがまさにサンギランの特徴なんですよ」
 と海部さん。ひとつの図を指さしていた。
「水平に地層が堆積したあと、地下のマグマの活動で一部が隆起して、地上に飛び出た部分が浸食されたんです。すると何が起きるかというと、浸食が起きた中心部のあたりには古い地層が露出して、そこから同心円状にどんどん新しい地層が出てくる、みたいな状態になるんです。それで、数十万年間の地層がすべて、ほぼ同じ場所で見られる。中心部が一番古くて、同心円状に新しい地層になっていく、ということになっているわけです」

隆起した地層(②)の中心部が浸食されて(③)、もっとも古い中心部から、同心円状に新しい地層が玉ねぎを切ったように露出する(筆者写す)

なるほど、隆起した地層は、周囲から見るとタマネギが頭を出しているような状態だと思えばいい。その後、浸食を受けて、出っぱった部分がなくなると、タマネギをスパッと切ったのと同じような同心円構造が出てくる。中心部が古い地層、外側が新しい地層というふうに対応する。

 通常、これほど長期の地層を連続的に見ようとしたら、とても高い崖だったり、思いきり深い試掘坑を掘ったりしなければならない。あるいは、違う時期の地層が出ている地域を探して、地道に比較するしかない。いずれにしても、同じ場所で「タマネギ的同心円」として年代をたどれるなら、願ったりかなったりである。

 地層には古い順から、カリベン層、プチャンガン層、カブー層、ノトプロ層という名前がついていた。1970年代に日本とインドネシアの合同調査によってサンギランの地層体系が明らかにされたとき、カリベン層以外はそれぞれ現地名にちなんで、順にサンギラン層、バパン層、ポジャジャール層と名前が変更になっている。少しややこしいが、今後はこの新しい地層名で話を進めていきたい。
 これらののうち、人類化石が出てくるのは、サンギラン層の最上部からバパン層の中部にかけてだ。年代にして、40万年かそれ以上の変化が記録されていることになる。
 さて、このような地層を押さえたら、次は、出てくる化石だ。

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文 川端裕人

かわばた・ひろと 1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ在職中に『クジラを捕って、考えた』を執筆、文筆デビュー。1997年よりフリーランス。小説作品に『銀河のワールドカップ』『星と半月の海』、ノンフィクション作品に『動物園にできること』など多数。最新刊は、一線の宇宙論研究者との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)、駆け出し声優のお仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙港(春夏篇・秋冬篇)』(早川書房)など。

メールマガジン「秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)を配信中。

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