ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

文 川端裕人

監修 海部陽介(国立科学博物館 人類史研究グループ長)

かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?
なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

(画像提供:国立科学博物館)

第9回 「サンギランの偉人」と化石の散逸

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論争を決着させた男

サンギランの博物館に掲げられているケーニヒスワルトの写真

 サンギランが原人化石の宝庫であることを発見したのは、ドイツ出身の人類学者グスタフ・ハインリッヒ・ラルフ・フォン・ケーニヒスワルトだ。彼は1930年代からジャワ島で化石の調査を始め、その過程でサンギランの重要性に気づいた。
 
 19世紀末にトリニールでデュボワによって発見されたジャワ原人の最初の化石は、当初、論争の的となり、なかなか「本物のミッシング・リンク」であると認められなかった。そのことは、第5回でも述べた。
 その後40年以上がすぎ、ケーニヒスワルトがサンギランで似たような頭骨や歯の化石を次々と発見したことで、ようやく「ジャワ原人」の正当性が受け入れられるようになったのだ。
 なにしろ、ケーニヒスワルトが「発見」したジャワ原人化石は、頭骨3点、顎4点、歯にいたっては、100点以上にも及ぶ。これだけの標本を前に、さすがに懐疑派も黙らざるをえなかった。
 
 と同時に、ジャワ原人とは別の人類についての新たな論争も巻き起こった。前回出てきた「メガントロプス」がそれだ。歯や顎が巨大なこの“謎の化石”をめぐって、「ピテカントロプス(ふつうのジャワ原人)とは異なる猿人の類だ」「いや、ジャワ原人の頑丈な個体にすぎない」など、何十年におよぶ論争の種となったのである。
 おびただしい数の化石を発掘し、論争を決着させたかと思えば、新たな論争を巻き起こす。ケーニヒスワルトは、時代の風雲児であったように思える。
 
 それにしても、彼のこの「生産性」は、どうだろう。何十万年も前の原人化石だから、たとえば、数千年前の縄文時代の遺跡からたくさんの人骨が見つかる、というのとは話が違う。一人の人類学者が、同じ産地で見つけた原人化石として、頭骨3、顎4、歯100点以上、というのはかなりのものだ。サンギランが産地として特別だとしても、彼はどれほど「すごい目」を持っていたのかと思う。
 すると海部さんが、頭骨の化石の模型を指差しつつ、“種明かし”をしてくれた。
「これ、バラバラになったのを組み立てているんですよね」
 と、まず言う。
 たしかにその頭骨は、自然な骨の縫合線とは思えない細かな筋がいくつも入っていた。

 

40個の破片がつなぎあわされたサンギラン2号(写真提供:馬場悠男・海部陽介)

 「ケーニヒスワルトの化石の集め方は、現地の人に頼んで、1個持ってきたらいくら支払う、というふうなやり方でした。そうしたら何が起こったかというと、現地の人が、よい化石を見つけた、と1個の頭骨を40個に割って、よろこんで持ってきたんです。その40個に割ったやつがこれ、サンギラン2号です」
 たしかに“地元の目”に頼る方法は効率的で、ケーニヒスワルトに多くの化石をもたらした。だがその反面では、思いもよらぬ結果を招いてしまったのだった。
 
 さらに、この方法にはもう1つの大きな問題があるという。
「村人が化石を持ってきてしまうと、化石がもともとあった地層があやふやになってしまうんです。化石の年代は通常、地層の年代から決めるのですが、そうなると個々の化石がいつのものなのかわからなくなってしまいます。だから現在の人類学者は、基本的にはこのような方法はとりません」

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文 川端裕人

かわばた・ひろと 1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ在職中に『クジラを捕って、考えた』を執筆、文筆デビュー。1997年よりフリーランス。小説作品に『銀河のワールドカップ』『星と半月の海』、ノンフィクション作品に『動物園にできること』など多数。最新刊は、一線の宇宙論研究者との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)、駆け出し声優のお仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙港(春夏篇・秋冬篇)』(早川書房)など。

メールマガジン「秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)を配信中。

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