さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く

この連載は、ブルーバックス編集部が最先端の研究を行う現場にお邪魔して、そこにどんな研究者がいるのか、どんなことが行われているのかをリポートする研究室探訪記です。
いまこの瞬間、どんなサイエンスが生まれようとしているのか。論文や本となって発表される研究成果の裏側はどうなっているのか。研究に携わるあらゆる人にフォーカスを当てていきます。
書籍としてのブルーバックスとはまた違った視点で見る、科学の現場をお楽しみください。

「食べる時間」は体内時計が教えてくれる

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さまざまな研究室を訪問してサイエンスの現場をリポートする「ブルーバックス探検隊が行く」。前回、睡眠障害を食生活で改善するというお話をうかがった、産業技術総合研究所の大石さんに、今回も引き続き登場していただきます。

「肥満になりやすい食事の時間帯がある」「運動するより食事のタイミングのほうが重要」「塩分の多い和朝食は体に良くないこともある」など、最新の研究からわかってきた驚きの事実が盛りだくさんです。

いつ食べるか、それが問題だ

「同じものを同じだけ食べるとしても、夜食べるよりも、朝食べたほうが肥満になりにくい。この経験則が、私たちの行ったマウスの実験でしっかりと確認できました。このような研究はアメリカなどでも大きな話題になっています。食べるのを我慢せずにダイエットできる、という話は国を問わずみんな大好きですからね」

大石さんが紹介してくれたのは、食事のタイミングが健康にどのような影響をもたらすのかという研究結果です。ダイエットに夜食は厳禁! という話はよく聞きますが、実は「食べる時間」と「健康」についてきちんとした研究が始まったのは、つい最近のことなのです。

「従来の栄養学は、『何を』『どれくらい』食べるかという観点から研究されてきました。しかし、それと同じくらい『いつ』食べるかも重要だということが、ここ数年でわかってきたのです。この分野は“時間栄養学”と呼ばれていて、実は、今月の3日に発表されたノーベル医学生理学賞の受賞対象である“体内時計”とも大きく関わっています」

地球上のほぼすべての生物には、睡眠やホルモン分泌、体温調整など、さまざまな生理機能に約24時間周期のリズムが存在し、体内時計によって制御されています。 「体内時計は、基本的に時計遺伝子が制御しています。今回、ノーベル賞を授与された3人はショウジョウバエの時計遺伝子を1970年代に発見したのですが、現在では人間を含む哺乳類においても時計遺伝子が確認されていて、体内時計のメカニズムが解明されようとしています」

時計遺伝子はいったい、どのようなメカニズムで時を刻んでいるのでしょうか。未解明の部分も残っていますが、簡単にまとめると次のような仕組みです。

まず、時計遺伝子のもつ情報(タンパク質の設計図のようなもの)から、細胞内で起こる複数のプロセスを経て、“時計タンパク質”と呼ばれるいくつかのタンパク質が合成されます。この反応は放っておけばずっと続くのですが、出来上がったタンパク質が細胞の中に溜まってくると、今度はそのタンパク質自身が、合成を抑制するようになります。一方で、合成されたタンパク質は時間が経つにつれて分解され、だんだんと少なくなってきます。すると合成を抑制する働きも弱くなり、ふたたびタンパク質が作られるようになります。このように時計タンパク質自身がフィードバックをかける巧妙な仕組みによって、時計タンパク質の約24時間周期の増減、すなわち体内時計が作られているのです。

実験で示されたあの証拠

「この体内時計の存在を上手に利用したのが“時間薬理学”、あるいは“時間治療”です。喘息(ぜんそく)発作や早朝高血圧など、様々な疾患の発症や症状の変化には1日のなかでのリズムが存在していることが知られています。これらのリズムを考慮して投薬時刻を工夫することを「時間治療」といいます。薬の効果のみならず、その副作用においても、投薬時刻によって大きく変わってくることがわかっていて、ある種の抗がん剤については、1日のなかのどのタイミングで投薬するのかということが延命効果に大きく影響することが報告されています」

それを、薬ではなく、食事にも応用しようというのが時間栄養学ということですね。

「時間栄養学の場合にも、食べ物の種類や栄養素によって、食べるべきタイミングと食べてはいけないタイミングが存在するものと考えられます。私たちの研究室では、まず食べるタイミングと肥満の関係についてマウスで実験してみました」

大石さんの実験は、人間で言えばハンバーガーとジュースのような高脂肪・高ショ糖のエサを、マウスが活動する時間帯(夜間)に食べさせた場合と、活動しない時間帯(昼間)に食べさせた場合とで比較するというものです。図1はマウスがどの時間にエサを食べたかを示しています。赤のグラフが昼間にエサを与えたマウス、青が夜間にエサを与えたマウス、水色は自由にエサを食べさせたマウスです。

図1 エサを食べたタイミング

 

自由にエサを与えたマウスでは、エサの8割程度を夜間に、残りを昼間に食べている一方、昼間か夜間のどちらかのみエサを与えたマウスは、そこで一気に食べていることがわかります。また、図2はマウスの運動量(1時間あたりの回転かごを回した回数)を示しています。

図2 マウスの運動量

 

「面白いのは、寝ている時間帯だけに食べさせても、ちゃんと夜行性の行動リズムは維持されているということです。行動のリズムを制御している体内時計は、食事の時間に影響を受けずに動いていることがわかります」

グラフを見ると、自由にえさを与えたマウスでは、寝ている時間に食べているように見えるのですが、これはどういうことなのでしょう?

「体の小さい生き物は、エネルギーを体に溜めておくことができないので、本来の活動期ではない昼間の時間帯においても、必要最低限のエサを摂取する必要があるようです」

寝ている間に食事なんて、すこしお行儀が悪いですが、エネルギーを維持するために仕方がないことなんですね。ここで注目すべきは、昼間にのみエサを与えたマウスでは、活動時間帯の後半になって活動量が下がっていることです。活動量が下がるとエネルギーの消費量も下がるため、結果的に体重が増加することになります。

「予想外なことに、非常に早くから体重が増加しはじめました。2日目ぐらいから活動量が低下して、1週間で統計的に有意なレベルで体重が増えています。同時に、コレステロールと中性脂肪も増えました。特に中性脂肪は2倍から3倍にもなっていて、たった1週間で脂肪肝になってしまったほどなんです」

図3 体重の変化
実験開始時点を100とした相対的な増加率

 

わずか1週間で、そこまで影響が出るなんて驚きですね。どうしてそんなに早く太ってしまうのでしょうか?

「体重が増えるメカニズムには複数の要因が考えられます。ひとつは単純に、活動量が低下することによって、エネルギー消費量が下がることです。もうひとつは、レプチン抵抗性という現象が起こっていることです」

レプチンとは、食欲を抑制するホルモンのことで、脳に満腹感を感じさせます。ところが、レプチンが分泌されているのにもかかわらず、食欲の低下がみられなくなる状態がレプチン抵抗性です。通常のマウスにレプチンを投与すると、エサを食べる量が減って体重も軽くなるのですが、寝ているはずの時間にエサを与えたマウスは、レプチンを投与しても、その効果がまったくなくなったというのです。たった1週間で、レプチン抵抗性が引き起こされたことは、大石さんのような専門家にとっても驚きだったそうです。

「レプチンは、エネルギー消費にも関係しているため、基礎代謝が下がって肥満になるというメカニズムも考えられます。不規則な時間に食べると太ることは、経験的には誰もが知っていても、その具体的なメカニズムについては、これまでほとんど何もわかっていませんでした。その謎に迫ることができる、とても面白い結果だと思っています」

夜中に少しくらい食べても、そのぶん運動すればいいと考えている人は多いのではないでしょうか。ところが大石さんは、食生活の乱れによる肥満が運動によって改善できるのか、という疑問についてもマウスを使った実験で驚くべき発見をしています。

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「さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く」は、ブルーバックス編集部が、最先端の研究を行っているさまざまな現場にお邪魔して、研究の今をリポートする連載企画です。

隔週木曜日に新しい記事を公開していく予定ですので、どうぞお楽しみに!

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