さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く

この連載は、ブルーバックス編集部が最先端の研究を行う現場にお邪魔して、そこにどんな研究者がいるのか、どんなことが行われているのかをリポートする研究室探訪記です。
いまこの瞬間、どんなサイエンスが生まれようとしているのか。論文や本となって発表される研究成果の裏側はどうなっているのか。研究に携わるあらゆる人にフォーカスを当てていきます。
書籍としてのブルーバックスとはまた違った視点で見る、科学の現場をお楽しみください。

さがせ、菌の「お国自慢」
いま地産微生物が熱い!

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(取材・文 深川峻太郎)

世界でも珍しい四国の「お茶文化」

前回の「お遍路の科学」に続いて探検を命じられたのは、またしても四国方面の研究である。今回のテーマは「地産微生物」。人をソワソワと落ち着かない心持ちにさせる字面だ。つい、地面の下から何やらワラワラと涌いてくる光景を想像してしまう。なぜか「微生物」と聞くと警戒心を抱いてしまうのは私だけではないだろう。

だが、これは危機管理とか公衆衛生とかの話ではない。正式なテーマは「農産物・環境より新たに分離した乳酸菌の機能性食品への応用の可能性」である。なーんだ、乳酸菌か。それなら体に良さそうなので安心だ。というわけで、産業技術総合研究所の健康工学研究部門(四国センター)でその研究を手がける堀江祐範さんにお話をうかがいました。

堀江さん

 

「私はもともと食品微生物が専門なので、地域資源である微生物を食品産業にどのように活用するかというテーマを掲げました。地場の菌を使うのは、お酒でよく行われていますよね。あれは地元の酵母をお酒づくりに活用しているわけですが、それと同じようなことを乳酸菌でもやれるのではないかと考えたんです。産業に使える地産乳酸菌を見つけて、その抗酸化性やアレルギー軽減効果、抗肥満効果などの機能性を明らかにすれば、地域の食品産業を支援できるのではないかと思いました」

聞けば、香川県と徳島県は糖尿病の罹患率全国1~2位を争う地域だそうだ。誰もが反射的に「うどん……」と呟きたくなるところだが、その因果関係は定かではない。いずれにしろ、健康に良い地産乳酸菌が見つかれば、地元民の健康増進にも寄与できるであろう。あと、もし運動不足で糖尿病が多いなら、地元のみなさんもお遍路をすればいいのに……と思ったが、それはまた別の話(というか前回の話)である。

ともあれ、そこで堀江さんが目をつけたのが、四国特産の「微生物発酵茶」だ。これは「後発酵茶(こうはっこうちゃ)」とも呼ばれ、同じ茶葉を使う不発酵茶(緑茶)、半発酵茶(ウーロン茶)、発酵茶(紅茶)のいずれともつくり方が違う。ウーロン茶や紅茶は茶葉自体に含まれる酸化酵素によって発酵させるので、微生物とは関係ない。

「簡単にいうと、微生物発酵茶はお茶の漬け物みたいなものです。いちばん有名なのは、中国の雲南省でつくられるプーアール茶。微生物でお茶を発酵させる文化は世界でも珍しく、雲南省のほかにはタイとミャンマーの国境地帯ぐらいにしかありません。しかしなぜか日本にも4種類の微生物発酵茶があるんです(図1)。不思議なことに、そのうち3種類が四国にあるんですよ。愛媛県の石鎚黒茶(いしづちくろちゃ)、高知県の碁石茶(ごいしちゃ)、徳島県の阿波晩茶(あわばんちゃ)。もうひとつは、富山県のバタバタ茶です」

図1 世界でも数少ない後発酵茶が四国には3種類もある!

 

バタバタ茶のネーミングだけノリが違うのがものすごく気になるが、今回は四国の話なのでそこは追求しない。四国の中で香川県だけ微生物発酵茶がないのも気になるが、これはうどんとは関係なく、このお茶は標高の高いところでつくられるので、あまり高い山のない香川には縁がなかったらしい。

さて、その4種類とタイの「ミャン」という微生物発酵茶の製造工程が図2である(ちなみにミャンは「食べるお茶」だそうだ)。大まかに分類すると、そのつくり方には3つのパターンがある。

A:真菌(カビ)の好気発酵だけ=バタバタ茶、プーアール茶
B:乳酸菌の嫌気発酵だけ=阿波晩茶、ミャン
C:真菌と乳酸菌の2段階発酵=石鎚黒茶、碁石茶

図2 それぞれの後発酵茶(微生物発酵茶)の製法
珍しい後発酵茶の中でも、2段階発酵させる碁石茶と石鎚黒茶はさらに珍しい

 

AとBは外国にもあるが、Cの2段階発酵は日本、それも四国にしかない。きわめて独特な文化だ。その2つのうち、碁石茶は高知県がブランド化に取り組んでおり、「道の駅」などでも販売しているが、愛媛県の石鎚黒茶は生産者の高齢化が進み、生産量も減っているとのこと。それもあって、堀江さんは石鎚黒茶を研究の中心に据えた。われわれ探検隊にも「酸味があるので好き嫌いは分かれますが」といいつつ振る舞ってくださったが、たしかにふつうのお茶とは違う独特の香りと風味だ。私は好きだったので「これ、売れるんじゃないかな」と呟いたが、もちろん責任は取りません。それに、この研究で重要なのは味よりも機能性である。

石鎚黒茶

 

「調べるのは、お茶自体の機能性と、お茶から分離した乳酸菌の機能性です。まずお茶自体の機能性ですが、現時点では抗酸化活性をほかのお茶と比較したデータが取れました(図3)。グラフの傾きが大きいほど抗酸化力が高いと思ってください。いちばん高いのは、発酵していない緑茶。次が2段階発酵の石鎚黒茶と碁石茶、嫌気発酵だけの阿波晩茶はやや低いですね。好気発酵だけ、つまり乳酸菌を使わないバタバタ茶は、ほとんど抗酸化活性がありません。おそらく、発酵中に抗酸化物質が消えてしまうのだと思います」

図3 さまざまな日本産後発酵茶の抗酸化活性
石鎚黒茶には緑茶に次ぐ抗酸化力があった!

 

前回の「お遍路の科学」では、「酸化ストレス」のことを教わった。酸化ストレス(活性酸素が引き起こすストレス)が高いと、生活習慣病などになりやすい。つまり抗酸化力が高いほど基本的には「健康に良い」といえるわけだ。

「緑茶の抗酸化活性が高いのは、カテキン類を多く含んでいるからだと考えられます。しかし次のグラフ(図4)で示したように、微生物発酵茶はどれもカテキン類が減っていました。これだけカテキン類が減っているのに、石鎚黒茶と碁石茶の抗酸化活性がそれほど減っていないのが興味深いですね。また、微生物発酵茶は緑茶と比べてカフェイン量も激減しています。それに加えて、カテキン類はお茶の渋みの素なので、それが少ない微生物発酵茶のほうが緑茶よりお子さんにも飲みやすいのではないでしょうか」

図4 後発酵茶に含まれるカフェイン量、カテキン量の比較
石鎚黒茶は抗酸化活性が強いのにカフェイン量、カテキン量は少ない

 

つまり、2段階発酵の石鎚黒茶と碁石茶は、緑茶よりも飲みやすい上に、抗酸化活性もそこそこ高いわけだ。では、そのお茶から分離した乳酸菌のほうには、どんな特徴があるのだろうか。堀江さんらが、石鎚黒茶、碁石茶、阿波晩茶から分離した乳酸菌の一覧表が図5だ。一見してちょっと頭がクラクラしたが、「Lactobacillus」が乳酸菌のことだから、名前の後半だけ注目すればよい。重要なのは赤字で表記された「Lactobacillus plantarum」である。これが3種類の微生物発酵茶に共通していた。

図5 それぞれの後発酵茶にはこんな乳酸菌たちが棲んでいる

 

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「さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く」は、ブルーバックス編集部が、最先端の研究を行っているさまざまな現場にお邪魔して、研究の今をリポートする連載企画です。

隔週木曜日に新しい記事を公開していく予定ですので、どうぞお楽しみに!

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