生命1.0への道

文 藤崎慎吾

 約46億年前に誕生した地球は、今から約50億年後、赤色巨星化した太陽に飲みこまれるという。つまり我々の惑星は、生涯の半ばにある。一方、そこに誕生した「生命」は、現在40億歳くらいだと言われている。しかし太陽の明るさが今より10~15%増大する約10億年後、地球の海は干上がり、水蒸気の温室効果で気温は1000℃以上になってしまう。おそらくそこで、この惑星は不毛の世界となる。つまり地球の生命は、晩年にさしかかっているのだ。人間の一生に換算すれば、だいたい80歳くらいと言えよう。

 それ故か生命は、我々人類の頭脳をもって、しきりと来し方を振り返るようになった。自分はどこから生まれ、どこへ消えていくのか? その探求自体が近年、急速に進化しつつあり、場合によっては自ら生命を創造しかねない勢いだ――そう気づいた筆者も人生半ばをとうに過ぎた。置き去りとならないうちに、どこまでわかったのか、わかりつつあるのかを追いかけてみたい。

絵・米田​絵理

第4回 太陽系ヒッチハイク・ガイド

 第2回の最後でお願いしたアンケートの回答数は、結局23件とあまり伸びなかった。「地球の生命は、どこで誕生したと思いますか」という質問に対して、1月27日現在では「地球の海中(熱水噴出域など)」が56.5%、「地球の陸上(温泉地帯など)」が17.4%、「彗星や小惑星」が13%である。「火星」と回答した人が1人もいなかったのは、ちょっと意外だった。しかし今回の記事を読んだら、少し変わるかもしれない。また「その他」の人が13%つまり3人ほどいるのだが、これらの方々はたとえば金星や木星などを想定しているのだろうか。あるいは地球の地下か? 記述式にしなかったのでわからないが、ちょっと興味がある。

オウムアムアがやってきた

 2017年秋、太陽系外からの時ならぬ訪問者に、世界中が騒然となった。その名は「オウムアムア(`Oumuamua)」、ハワイ語で「遠方からの最初の使者」を意味する。歴史上、初めて観測された恒星間天体である(図1)。その姿がハワイ大学の「パンスターズ1」望遠鏡に捉えられたのは10月19日で、ほぼ1ヵ月後の11月20日に詳細がイギリスの科学雑誌『ネイチャー』電子版で報告された。それによればオウムアムアは長さ800m、幅80mくらいの細長い形状だと推定されている(注1)。太陽系内で、こんなエンピツというか、電柱みたいな天体は見つかっていない。その軌道の形や速度からも、太陽系外から来たことが示唆されるという(図2)。こと座のベガがある方向からやってきて(注2)、太陽系にほぼ真っ直ぐ上(注3)から突っこんできたらしい。そして太陽などの重力の影響を受け、弾かれるようにペガスス座の方向へ向かっているところだ。おそらく二度と戻ってはこない。

図1 オウムアムアの想像図(ESO)

 

図2 オウムアムアの軌道(ESO)

 

注1)長さ400mで幅40m、あるいは長さ200mで幅20mという推定もある。

注2)これはオウムアムアの故郷がベガであることを意味しない。速度と距離から逆算して、オウムアムアが現在のベガの位置にあったとき、そこにベガはなかったからだ。

注3)大雑把に太陽系を一枚のディスクと見て、地球で言えば北向きの方向を上とする。

 オウムアムアは彗星のように塵やガスをまとっておらず、赤みがかった光を反射していることから、当初は有機物や金属、岩石などからできていると予想された。細長くて、金属? そう聞いて宇宙船や探査機を連想しない人はいないだろう。ヨーロッパ南天天文台(ESO)が発表したオウムアムアの想像図は、単なる円柱状の岩石っぽく描かれていたが、ネット上では数日もすると、すっかり葉巻型宇宙船のような姿に(おそらくは無断で)「改造」されていた。さらに長さと幅が10:1の比率であることから、その「宇宙船」を飛ばした連中は10進法を使っており、おそらく手の指は合わせて10本だろうなどと、うがった意見も飛び交い、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。

 真実かどうかはともかく、オウムアムアが異星人の「種まき装置」だった場合、あるいは表面に太陽系外の生命がしがみついていた場合、何が起きうるだろうか。観測されたのは初めてだったにしても、このような恒星間の旅人が少なからず太陽系を訪れている可能性は、以前から指摘されていた。たとえ40億年前であっても、それは同じだろう。そしてオウムアムア的な物体から放たれた、あるいは舞い降りた生命の種が、たまたま原始地球に根づいたとしたら……? 第1回で紹介した「パンスペルミア仮説」の壮大なバージョンが、現実となりうる。想像するのは楽しい。

 そこまでのスケールではないものの、火星の生命が地球にやってきた可能性については、日本の専門家の間でも真面目に検討されている。第2回で触れた通り、中心人物の一人は東京薬科大学教授の山岸明彦さんだ。また生命そのものではないが、有機物など生命の材料が宇宙からやってきたと考える研究者は多い。横浜国立大学教授の小林憲正さんも、その一人だ。

 生命そのものが来るにせよ、材料が来るにせよ、その過程にはいくつか共通のハードルがある。まずは供給源である天体から、宇宙へ旅立つことができるか。次に真空で低温、かつ有害な宇宙線や紫外線の飛び交う宇宙空間で、長い旅路を生き残ることができるか。そして地球の大気圏に突入してから、無事に地表まで到達できるか、といったことである。

文 藤崎慎吾

1962年、東京都生まれ。埼玉県在住。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』で作家デビュー。早川書房「ベストSF1999」国内篇1位となる。現在はフリーランスの立場で小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。『深海のパイロット』『日本列島は沈没するか?』『ハイドゥナン』『鯨の王』『深海大戦 Abyssal Wars』3部作など海を舞台にした著作が多い。民俗学にも強い関心があり『螢女』『遠乃物語』といった作品に反映されている。生命の起源に関連したノンフィクションには『辺境生物探訪記』(共著)がある。近況はフォトブログ「風待ちの島」(http://shingofujisaki.sblo.jp/)で。

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