夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か

夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か

編 光化学協会(こうかがくきょうかい)
監修 井上晴夫(いのうえ・はるお)

世界をリードする日本の科学技術

はじめに

 毎年のように、「今年はどうしてこんなに暑いのか」「今年の雪は例年になく深い」「異常気象ではないか」などと感じるのは筆者ばかりではないらしい。ニュースに耳をそばだてながら、自身が年齢を重ね、体力が低下して温度変化に対応できないのかと自戒するむきもあろうが、観測の結果は実際に地球の温度上昇を示しているという。

 スウェーデンのアレニウスは、電解質に関する業績でノーベル化学賞を受賞(1903年)しているが、非常に多才な科学者で大気の温暖化と二酸化炭素濃度とについて初めて考察し、その推算式も提案している。大気中の二酸化炭素濃度が増加するとその保温効果で大気温が上昇すると考察したのだ。この影響だろうか、文学にも登場する。宮澤賢治『グスコーブドリの伝記』に二酸化炭素による温暖化がでてくる。

 人類はこれまでに石油などの化石資源を、いわば頓着なく使ってきた。エネルギーについては自然採取の食いつぶし型の消費をしてきた。石油をエネルギー源として燃やせば二酸化炭素が発生する。植物が気の遠くなるような時間をかけて蓄積してきた二酸化炭素は化石資源となっているが、大量に化石資源を燃焼させれば当然、大量の二酸化炭素が放出される。アレニウスの想像が現実のものとなりつつあるのである。このまま放置して手遅れになる前に、地球食いつぶし型ではなく、快適な地球を維持できる定常型のクリーンエネルギーシステムを開発しなければならない。太陽光を利用して電気を作る太陽電池のいっそうの普及や、水を原料に水素などのクリーンエネルギー物質を作る人工光合成の開発が急がれている。

 本書は、人工光合成への挑戦をできるだけわかりやすく解説しようとした。文字通り、人工光合成とは、自然の光合成を学び、真似て、あるいはまったく異なるしくみだがその機能の一部は自然を超えるものを開発しようとするものである。この分野は、本書で述べるように1967年のホンダーフジシマ効果の発見以来、その基礎研究では我が国が世界をリードする分野の一つである。

 しかし、いつ実現できるのか? 社会に全面的に適用しようとする目標年を2050年と設定しているが、そんな悠長なことで大丈夫か? 人工光合成はどこまで進んでいるのか? 何が問題なのか? 社会はどう考えたら良いのか?──このような視点で本書を読んでいただけたら幸いである。

 長期的な取り組みはマラソンレースに例えられることがあるが、人工光合成の実現はマラソンというよりも、駅伝競走と考えたい。各区間を全力で疾走しつつ次世代にバトンを渡そう。各区間記録の達成が、山登りに例えれば、初登頂、新ルートの発見など科学史に残る業績となろう。2016年の時点で高校生なら、目標年の2050年には50歳だ。社会のリーダーになっているだろう。将来を担う世代には、人工光合成の進捗を見守り、是非自身がバトンを受け取り、その研究推進、技術推進に参加していただきたいと心から願うものである。

 研究最前線では、研究者は自身の研究が将来どのように社会に役に立つかを「知の望遠鏡」を通して見ようとする。一方、現実の社会生活では、解決してほしい課題の背後に潜む科学を「知の顕微鏡」を通して理解しようとしている。本書が、この望遠鏡と顕微鏡をつなぐ役割を果たすことができれば執筆者一同、望外の喜びである。

編 光化学協会(こうかがくきょうかい)

一九七六年発足。光化学、光技術領域の基礎研究から幅広い応用技術を担う専門家集団。光化学の情報発信基地。個人会員一〇〇〇名余、賛助会員三六社。

監修 井上晴夫(いのうえ・はるお)

首都大学東京大学院特任教授・人工光合成研究センター長。一九六九年、東京大学工学部卒。工学博士。文部科学省所管の科学技術振興機構「さきがけ研究」の 「光エネルギーと物質変換」研究総括、文部科科学省・科学研究費・新学術領域研究「人工光合成」(略称:An Apple)領域代表。

[B1980]

夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か 世界をリードする日本の科学技術

編:光化学協会,
監修:井上晴夫

光エネルギーを化学エネルギーに変換し二酸化炭素を出さない夢の技術は本当に可能か? 化石燃料から脱却するには人工光合成しかない。

定価 : 本体900円 (税別)

ISBN : 978-4-06-257980-3

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