欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」

欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」

奥田昌子(おくだ・まさこ)

科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防

はじめに

 本書を手に取ってくださった皆さん、健康を守るために日頃から心がけていることはありますか。テレビで見た健康法を続けている人も少なくないでしょう。そんな皆さんにクイズです。次の三つのなかに間違った健康法があります。わかりますか?
 
 ①骨を強くするために牛乳や乳製品をつとめて摂取している
 ②筋肉をつけて基礎代謝を上げるため、ジムに通い始めた
 ③糖尿病予防やダイエットのために炭水化物(糖質)をひかえている
 
 じつは、すべて間違いです。正確に言うと欧米人には有効でも、日本人には効果が期待できません。


 いつまでも健康で若々しくありたいと願う気持ちに国境はありませんが、欧米の健康法が日本人にも同じように効くとは限りません。日本人と欧米人は体質が違うからです。


 日本は青い海という自然の境界で他国と隔てられ、そこに暮らす日本人は他の人種と交じり合う機会が多くありませんでした。このことが、固有の言語、習慣、食生活、美意識、信仰をはぐくみ、欧米はもとより、アジアの他の地域とも違う独自の文化が花開きました。そして、長い歳月のうちに日本人の体も独自の変化をとげました。とくに欧米人とくらべると、髪や肌、瞳の色などの外見だけでなく、筋肉のつきかたや脂肪の質、体温、食物の消化吸収力、アルコールの分解力、インスリンの量、腸内環境など、さまざまな点で違いが生じています。


 詳しくは本文で説明しますが、人の体質は、遺伝子によって決まり、基本的に一生変わらない部分と、生活習慣やストレス、食生活や運動などの環境要因によって変わる部分がからみあってできています。日本人と欧米人は異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境要因のもとで生きてきました。こうして作られた日本人の体質は、当然ながら欧米人の体質とは違います。体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたが変わり、そうなると日頃の健康法や病気の予防法、そして治療法も同じというわけにはいきません。


 米国にはさまざまな国から移民を受け入れてきた歴史があるため、それぞれの人種に最善の医療を提供するための人種差医療という考え方があります。これに対して日本では、人種による体質の違いが広く取り上げられることはありませんでした。人種差の視点から書かれた医学書もほとんどなかったと思います。日本には他の人種の人が少ないので、人種の違いを意識せずにきたからでしょう。また、比較的データが集まりやすい欧米白人とは対照的に、日本人の体質の特徴を解明するには日本で研究を進めるしかなく、これには大変な手間と時間がかかります。なかでも遺伝的素因について、どこがどう違い、その違いにどんな意味があるか明らかにするには、遺伝子情報を迅速かつ正確に分析する技術の開発を待たねばなりませんでした。


 大きな転機となったのがゲノム解析技術の急速な進歩です。2003年、人間の全遺伝情報が解読されました。このとき使われたDNAはおもに欧米人のものでしたが、その13年後の2016年には日本人の標準的な遺伝子配列が明らかになりました。こうして集まり始めた遺伝的素因に関する情報と、それまで地道に進められてきた疫学研究、基礎研究、臨床研究による膨大なデータを結びつけることで、日本人固有の体質や、その体質を背景に発生する病気の全体像が少しずつ見えてきています。


 本書では、これらの新しい知識をやさしい言葉で説明しながら、日本で暮らす日本人にとって本当に有効な健康法と病気の予防法について、皆さんと一緒に考えたいと思います。ご自分や、親しい人の身に置き換えて読んでいただけるよう、現代の日本で増えている病気のうち、とくに大切なものを取り上げました。


 冒頭の第1部第1章では、体質とは何か、人種によって体質がどれほど違うか、体質の違いがわかると医療がどう変わるかを説明します。続く第2章で、欧米生まれの健康法の何が日本人にとって問題か調べましょう。第2部では、生活習慣の変化にともなって増え続ける生活習慣病に目を向け、日本人が糖尿病(第3章)、高血圧(第4章)、脂質異常症と動脈硬化(第5章)の発症と進行を食い止めるのに必要な正しい知識を明らかにします。どんな点が欧米人と異なるのでしょうか。そして第3部では、日本人の死因第1位を占める悪性新生物(がん)をどこまで予防できるか(第6章)考えたのち、日本に昔から多い胃がん(第7章)、近年増えた大腸がん(第8章)、そして急増する女性の乳がん(第9章)に注目します。


 本書は第1章という入り口をくぐると、健康法の部屋が1つと、さまざまな病気に関する7つの部屋が並んだ構成になっています。どの部屋からのぞいても構いませんが、とくに遺伝的素因に関する知識のなかには、始めに基本をしっかり押さえておいたほうがよいものがあります。まずは第1章に目を通していただくと、本書全体がぐっと理解しやすくなるはずです。


 民族や人種の体質を知ることは、その集団の暮らしと伝統、ものの考えかたを知ることでもあります。日本人は何を食べ、どんな生活を送り、何を大切に生きてきたのでしょうか。そんな日本人がこれからも健康でいるために、守るべき習慣、変えるべき習慣は何でしょう。本書を読み進むうちに、きっと納得できる答えが見つかります。


 ではさっそくページをめくって、第1部第1章「欧米人と日本人は体質が違う」に進みましょう。

奥田昌子(おくだ・まさこ)

内科医。医学博士。京都大学大学院医学研究科修了。長年にわたり健診センターで予防医学に従事。大手化学メーカー産業医を兼務し、医学文献、医学書の翻訳にもあたる。翻訳書に『身体が見える・疾患を学ぶ 解剖アトラス』(メディカ出版)、『ジョージィの物語――小さな女の子の死が医療にもたらした大きな変化』(英治出版)など。著書に『健康診断 その「B判定」は見逃すと怖い』(青春出版社)がある。

[B1997]

欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」

奥田昌子

おなじみの健康法でも、体質に合ってなければ逆効果! 日本人ならではの体質を知ることで、病気にならない身体を作る方法とは?

ISBN : 978-4-06-257997-1

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