ランニングする前に読む本

ランニングする前に読む本

田中宏暁(たなか・ひろあき)

最短で結果を出す科学的トレーニング

まえがき

・フルマラソンを完走したい
・健康のために走り始めたいと思っているが、体力に自信がない
・走れる距離をもっと伸ばしたい
・レースのタイムが伸び悩んでいる
・ランニングでダイエットしたい
・サブスリーを狙いたい
……「ランニング」と一口にいっても、レベルも違えば走る目的も人それぞれ。解消したい悩みにもさまざまなものがあるでしょう。
 ですが、走ることへのそうした悩みのすべてを解消できる走り方があります。
 決して苦しくなく、ウォーキングの2倍ものカロリーを消費できて、効率よくダイエットができる。走れる距離も次第に伸びていき、これまで走ったことのない人でも、最短で3ヵ月あればフルマラソンを完走できる。タイムも伸びていき、本格的にレースに取り組んでいる方であれば、サブスリーだって夢ではない。さらにいえば、血圧や血糖値を下げたり、脳の認知機能を向上させるなど、健康にも大きなメリットがあることが次々と明らかになってきているランニング方法なのです。
 特別なスキルは必要ありません。ちょっとしたコツをつかむだけで、誰にでもマスターできます。本書では、そんな走り方を、どなたにもわかりやすく紹介していきたいと思います。
 
 こうお話しすると、「そんな都合のよい話があるわけない」と思われてしまうかもしれません。ですがこれは、私自身が47年にわたって研究し、運動生理学の観点からその効果を科学的に実証してきたものです。
 その走り方を「スロージョギング」と名付け、現在も研究を続けています。
 ぜひ皆さんには、 されたと思って、とりあえず始めてみていただきたいと思います。必ず結果が出るはずです。
 
 なぜここまで自信を持っていえるかというと、私も研究をしながらスロージョギングを20年間続けてきて、効果を体感しているからです。
 少し個人的なことをお話しさせていただくと、私が初めてフルマラソンのレースに出たのは37歳のときでした。学生時代から運動生理学を専門として研究をしていたのですが、このときは運動のストレスとホルモンの関係を調べるために、自ら実験台になったのです。
 練習を数ヵ月間積み、本番に挑みました。タイムは4時間11分1秒でしたが、走り抜いたときには疲労困憊。地獄を味わうような苦しさで、もう二度とフルマラソンのレースには出場するまいと決意したほどでした。
 それから9年後。日常的にランニングは続けていましたが、研究の忙しさにかまけて、走る量は週に4~5㎞くらいでした。お酒も飲むようになっていたので、気づいたときには体重が10㎏も増加。さらに健康診断では、脂質異常症も見つかってしまうというお恥ずかしい状況だったのです。
 減量をしようと思っていた矢先、1965年のボストンマラソンで優勝された経験も持つ重松森雄さんから頼まれて、彼の駅伝チームのアドバイザーを務めることになりました。運動生理学の観点からトレーニング方法などを指導するため、改めて関連文献を読み直したのです。
 
 そこでまず、一流選手や市民ランナーのマラソンの平均スピードを見ると、私たちの研究で生活習慣病などの運動療法として有効性を見出した「にこにこペース」に近似することを知りました。くわしくはあとでお話ししますが、このにこにこペースは、乳酸が溜まりはじめる速度(乳酸閾値)で、笑顔を保って走れるくらいゆっくりしたペースのため、高血圧の治療や心臓リハビリテーションにすすめていたものです。これは驚きの発見でした。
 そこで、自分のにこにこペースからマラソンの記録を推定してみると、なんと初マラソンより断然速い3時間30~3時間50分で走れると予想されたのです。科学的に導かれたこの仮説を信じて、にこにこペースでレースに臨んだところ、2回目のフルマラソンのレースで3時間30分3秒を記録しました。練習量はごくわずかでしたし、最初のレースから10歳ほど歳をとっているにもかかわらず、です。
 その後の研究で、10㎏減量すれば、さらに30分以上タイムを縮められ、市民ランナーあこがれのサブスリーが実現すると推定されました(その推定方法は、のちほどご紹介します)。この推定で、がぜん減量にも意欲が湧きました。スロージョギングで1日トータル6~7㎞走り、1日300~400kcalのダイエットで10㎏の減量に成功。そしてレースに出場すると、仮説どおりに2時間55分11秒で走ることができたのです。
「計算どおりにおこなえば、結果は必ず出る」と確信した経験でした。ここからさらに研究を重ね、本書でご紹介するランニングのメソッドを確立するに至ったのです。
 
 その後、スロージョギングや、スロージョギングと同等の有酸素運動の効果がさまざまな角度から実証され、日本動脈硬化学会の治療ガイドラインでスロージョギングが推奨されるまでになりました。いまでは欧米を中心に海外にも普及しています。アメリカの空軍のトレーニングにも、スロージョギングが取り入れられるようになりました。
 さらに、スロージョギングは脂肪を落とすのに非常に効率的で、健康を維持するのにとてもよいということもわかってきていますし、なんといっても「ツラくない」ので、年齢に関係なく始められ、楽しみながら続けられるのも大きな魅力です。
 走ることは苦しいこと、と思っている人は多いかもしれません。ですがスロージョギングを知れば、そのイメージはガラッと変わるはずです。
 私は今年で70歳を迎えますが、スロージョギングのおかげで体重はピーク時から13㎏減っていますし、フルマラソンのレースにも毎年出場しています(ちなみに私のフルマラソンのベストタイムは50歳のときで、2時間38分48秒です)。
 
 ランニングがブームになって久しいですが、走ることについては、さまざまな情報があふれています。走れる身体を作るためには筋トレをおこなったほうがいい、速く走るにはピッチ走法よりストライド走法のほうがよい、故障を避けるためにはクッション性の高いシューズを履くべきだ……など、インターネットを見るだけでも、多様な説があってどの方法を取り入れればよいのか、悩んでしまう人も多いのではないでしょうか。
 じつは、そのような情報の中には、科学的根拠がないことも多いのが事実です。いま、あなたが走ることに対して何らかの悩みを抱えているとしたら、根拠のない情報に惑わされて、自分の身体に合わない走り方をしてしまっているからかもしれません。
 
 本書には、走ることに興味のあるすべての方に知っていただきたい知識が詰まっています。ここでご紹介する方法が、科学的に考えても非常に合理的であると私は確信を持っています。
 ランニングは、本来ヒトにとって自然な運動で、誰でも走る才能は持っています。シンプルな運動なので特別なスキルは必要なく、少しポイントを押さえるだけで、誰でもトップランナーと変わらない走り方を身につけることができます。
 ぜひ皆さんに、もっと走る楽しさと素晴らしさを知っていただきたいと思っています。さあ、それではさっそく始めましょう。

田中宏暁(たなか・ひろあき)

医学博士、福岡大学スポーツ科学部教授、福岡大学身体活動研究所所長。一九四七年生まれ。東京教育大学体育学部卒。専門は運動生理学。肥満や生活習慣病の治療と予防に有効な運動の研究を続け、スロージョギングを提唱。自らもランナーとして日々ランニングを実践している(フルマラソンの自己ベストは50歳で2時間38分48秒)。日本健康支援学会理事、ランニング学会常務理事などを歴任し、日本陸連科学委員、日本オリンピック委員会強化スタッフの立場でトップアスリートの競技力向上のアドバイザーとしても活躍した。『賢く走るフルマラソン』(ランナーズ)『スロージョギング健康法』(朝日新聞出版)等、著書も多数。

[B2005]

ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング

田中宏暁

簡単なコツを掴むだけで、3ヵ月でフルマラソンは完走できる。生理学から導かれた「確実に結果を出す方法」とは?ランナーの必読書。

定価 : 本体980円 (税別)

ISBN : 978-4-06-502005-0

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