海に沈んだ大陸の謎

海に沈んだ大陸の謎

佐野貴司(さの・たかし)

最新科学が解き明かす激動の地球史

はじめに

ムー大陸伝説は誰もが一度は聞いたことがあると思います。それは1万年以上もの昔、太平洋に大陸が存在し、高度な文明が栄えていたが、天変地異により海底に沈んでしまったというものです。多くの人は、この伝説をただのオカルト話とみなし、海に沈んだ大陸など存在しないと思っていることでしょう。しかし、本当にそうでしょうか? 太平洋の海底地形を見て、ムー大陸の痕跡など存在しないと確認した人は何人いるでしょうか?

最近ではインターネットでGoogle Mapなどへアクセスすれば、海底地形もすぐに確認できるので、もしまだ見た記憶がない方は、太平洋の海底地形を調べてみましょう。すると、海底は平坦ではなくデコボコしていることに気づくはずです。デコボコの中で海面から頭を出しているのはハワイなどの海洋島、頭を出していないのは海山です。そして、海山よりもずっと広大な台地がいくつも存在することにも気づくはずです。これら台地は「巨大海台」とよばれています。中には日本列島の数倍の面積をもつものがあり、海底に沈んだ大陸のように見えます。

巨大海台の中には、かつて海面から頭を出していた部分も存在することがわかっています。そのことを考慮すると、このような巨大海台は海に沈んだ大陸といえるかもしれません。これこそが海に沈んだムー大陸なのでしょうか? ところが、話はそれほど単純ではありません。海に沈んだ大陸を発見したといえるのは、巨大海台が大陸の特徴をもつことを地学的に証明できた場合です。このことを理解するためには、地学(地質学)の基礎から少し難しいことまで理解している必要があります。

地学は理科科目の一つであり、大地をつくる地層、鉱物、化石などを研究する分野ですが、日本では他の科目とくらべるとあまり勉強されていないようです。以前、高校の理科の先生から、「地学がよくわからないので、授業でうまく教えられません。そもそも社会科の地理との違いは何ですか?」と質問されたことがあります。

地学と地理とは違います。単純に比較すると、地理は地図をつくったり地形の成り立ちを知る学問ですが、地学は地球内部の構造や地球の歴史を調べる学問なのです。大陸と海洋の違いを考える場合、地理の世界では海水面よりも標高の高い場所が大陸、低い場所が海洋となりますが、地学の世界では違います。大地をつくる岩石の種類によって大陸と海洋底とを区分するのです。したがって、海の下に沈んでいても、大陸の岩石からつくられている場所は大陸とよびます。たとえば、「大陸棚」という用語を聞いたことがあると思いますが、これは海底に存在する大陸なのです。しかし、これだけの説明では、地学的な大陸の見方がよくわからないかもしれません。

そこで本書は、ムー大陸伝説を地質学的に検証するというかたちで、地学の基礎から説明し、大陸と海洋底の違いや、地球の歴史における大陸の成長史などについて解説していきます。そして太平洋の海底に存在する巨大海台とは何なのか(ムー大陸なのか?)について考えていきます。さらに、ムー大陸伝説やアトランティス大陸伝説で語られているよりも大規模な天変地異が、地球の歴史において繰り返し起きていたことについても述べていきます。この天変地異は超巨大火山の噴火や巨大隕石の落下により引き起こされているようです。

本書は、ムー大陸伝説に興味のある中高生に読んでもらうために、地学の基礎から解説しています。また、大学や大学院で地学(地球科学)を専攻している学生にも満足してもらえるように、最新の研究成果も紹介しています。そして中学校や高校で理科を教えているけれど、地学がよくわからないという先生にも目を通していただき、地学を深く理解してもらいたいと希望して執筆しました。

さてムー大陸は本当に存在したのでしょうか? 現代の地質学で、ムー大陸のミステリーに挑みましょう。

佐野貴司(さの・たかし)

1968年、静岡県生まれ。1997年、東京大学大学院理学系研究科地質学専攻博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、国立科学博物館地学研究部鉱物科学研究グループ長。専門は火山学および岩石学で、おもな研究対象は超巨大火山。著書に『地球を突き動かす超巨大火山――新しい「地球学」入門』(講談社ブルーバックス)がある。

[B2021]

海に沈んだ大陸の謎 最新科学が解き明かす激動の地球史

佐野貴司

失われた「ムー大陸」は本当にあったのか? 長年にわたる海底調査から幻の大陸がその姿を現した。地球科学最大のミステリへようこそ。

定価 : 本体980円 (税別)

ISBN : 978-4-06-502021-0

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