特別寄稿 熊本地震の読み方 後編:20年後の西日本大震災

  • 2016/05/18

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    特別寄稿 熊本地震の読み方
    後編:20年後の西日本大震災

     きわめて特異な様相をみせている熊本地震は、次に起きる災厄の予兆なのでしょうか? もはや地下では、止めようのないシナリオが進んでいるのでしょうか?
     鎌田浩毅さんの特別寄稿「熊本地震の読み方」の前編に続いて今回は、著書『富士山噴火』でも言及されている南海トラフ巨大地震の可能性を、詳細に解説していただきました。複数のプレートがひしめく列島の上に暮らす私たちにとってこれは、受け入れざるをえない現実です。ならばどうするかは、日本人すべてにとっての宿題です。




     全世界で起きるマグニチュード6以上の地震のうち、2割が日本で発生している。過去に起きた地震や津波といった自然災害は、すべて「プレート」と呼ばれる地下にある厚い「岩板」の動きによって発生した。したがってプレート運動を解析すると、将来の災害を見通すことが可能である。
     今回は日本列島を取り巻くプレートの状況を明らかにし、約20年後に日本列島を襲う激甚災害である南海トラフ巨大地震、すなわち「西日本大震災」について解説しよう。
     

    「大地動乱の時代」に入った日本列島

     最近、頻繁に起きている地震と噴火は、東日本大震災の原因となった「東北地方太平洋沖地震」が誘発したものだ。このとき、日本列島の地盤は、東西方向に5メートルも引き延ばされてしまった。ここで生じた歪みを解消するために地殻変動が活性化し、日本は9世紀以来という「大地動乱の時代」に入ったのである。その結果、今後は20~30年のスパンで、さらなる地震に見舞われるだろう、と私たち地球科学者は予測している。

     いちばん懸念されるのは、巨大津波をともなう巨大地震、すなわち西日本の太平洋沿岸を襲う「南海トラフ巨大地震」である。
     予想される震源域は、「南海トラフ」と呼ばれる海底の凹地に沿った3つの区間に分かれている(図1)。これらがそれぞれ、東海地震・東南海地震・南海地震に対応し、首都圏から九州までの広域に甚大な被害を与えるのだ。
     


    図1 南海トラフ巨大地震の震源域

     

     歴史を遡(さかのぼ)ると、南海トラフ沿いの地震は約100年の間隔で起きており、その中でも3回に1回は超弩級の巨大地震となった。そして次回、南海トラフで起きる巨大地震は、この「3回に1回」の番に当たる。すなわち、東海・東南海・南海の3つが同時発生する「連動型地震」という最悪のシナリオである。
     
     ここで連動型地震の起き方について、過去の事例を見てみよう。
     前回は1944年(昭和19年)の昭和東南海地震と、1946年(昭和21年)の昭和南海地震が、2年の時間差で発生した。前々回は1854年(安政元年)に、安政東南海地震と安政南海地震が、32時間の時間差で活動した。3回前は1707年(宝永4年)の宝永地震で、このときは3つの震源域がわずか数十秒のうちに連続して活動した。

     なお、過去の歴史を見ると、これら3つの震源域は、東南海地震(名古屋沖)→東海地震(静岡沖)→南海地震(四国沖)という順番で地震を起こしていることもわかっている。
     おそらく、3つの震源域が連動した場合も、この順番で次々と地震が起きるだろう、ただし、3つがどのくらいの時間差で活動するかはわからない。歴史から判断しても、2年から数十秒という大きな幅があるというのが現実だ。
     

    地震発生の確率を算出する方法

     では、南海トラフ巨大地震が起きる確率はどのように考えるべきなのであろうか。
     これから30年以内に、東海地震、東南海地震、南海地震の個々の震源域でM(マグニチュード)8以上の地震が発生する確率は、以下のとおりだ。
     
     M8.0の東海地震………88%
     M8.1の東南海地震……70%
     M8.4の南海地震………60%
     
     しかも、これらの値は毎年更新され、少しずつ上昇しているのだ。
     


    図2 地震発生確率の求め方

     

     次に、平均して約100年の間隔で大きな地震被害を被ってきた場所を仮定して、今後の地震発生の確率を考えてみよう。
     図2のアは、前回の地震から100年がたっていないケースである。「基準日」とは現在のことだ。この場所で、基準日から30年後までの間に地震が発生する確率を求めてみる。Bの部分の面積が、いまから30年後までに地震が発生する確率だ。Cの面積は、30年後までに地震が起きず、その先で発生する確率である。すると、30年後までに地震が発生する確率は、Bの面積を、BとCを足し合わせた面積で割ることで算出される。
     
     図2のイは、前回の地震からすでに平均間隔の100年がたったにもかかわらず、まだ地震が起きていないケースである。ここでも発生確率はアと同様に算出される。ここで、アとイの結果を比べてみると、イのほうがアよりも高い発生確率になることがわかるだろう。
     たとえば、南海地震は前回の1946年の活動から70年が経過しているので、確率は上記のように60%となった。一方、東海地震は1854年に起きた前回の地震から162年も過ぎているので、88%という高い確率になるのである。
     
     ところで、図3に西南日本の主要な活断層を示したが、これらは活動の平均間隔が1000年と、非常に長い。この場合はどうなるかを示したのが、図2のウである。Bの面積が相対的に小さくなるので、30年以内の発生確率はずっと小さな値となる。
     


    図3 西南日本の主要な活断層

     

     熊本地震は日奈久(ひなぐ)断層帯と呼ばれる活断層で起きている。この断層帯の八代海区間(30キロメートル)では、今後30年以内にM6.8以上の地震が発生する確率が最大16%と計算された。全国の主要な187活断層の中で最も高い数字が与えられているが、それでも東海地震などと比べると、小さな値となっている。
     
     試みに、一人の人間が30年以内に、地震以外のなんらかの災厄に遭遇する確率を見てみよう。
     交通事故で負傷24% 、ガンで死亡6.8% 、空き巣の被害3.4%、火災で負傷1.9% 、ひったくり1.2%、スリ0.58%、台風で負傷0.48% 、交通事故で死亡0.2%、航空事故で死亡0.002%。これらと比べると、日本における地震の発生確率がいかに高いかがわかっていただけるだろう。
     

    南海トラフ巨大地震の災害予測

     現在の地震学では「想定外をなくせ」という合い言葉のもとに、南海トラフ巨大地震が発生した場合に起こりうる災害を定量的に予測している。国が試算した想定では、地震の大きさは東北地方太平洋沖地震を超えるM9.1、海岸を襲う最大の津波高は34メートルに達する。加えて、南海トラフは海岸に近いので、いちばん早いところでは2分後に巨大津波が海岸を襲うのだ。
     
     地震災害としては、九州から関東までの広い範囲に、震度6弱以上の大揺れをもたらす。震度7を被る地域は10県にまたがり、総計151市区町村に及ぶ。その結果、犠牲者の総数32万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートルと予想されている。
     また、南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実で、産業・経済の中心地が軒並み被災地域に含まれる。

     こうしたことを考えると、東日本大震災よりも「1桁」大きい災害になる可能性が高い。すなわち、人口の半数近い6000万人が深刻な影響を受ける「西日本大震災」である(拙著『西日本大震災に備えよ』PHP新書を参照)。
     実際に、経済的な被害総額は220兆円を超えると試算されていて、これは東日本大震災の被害総額の試算20兆円ほど(GDPでは3%程度)の10倍以上である。
     南海トラフ巨大地震の起きる時期を、一般市民が期待する年月日のレベルまで正確に予測することは、いまの技術では不可能だ。しかし地球科学者は、古地震やシミュレーションのデータから、それは西暦2030年代に起きると予想している(拙著『京大人気講義 生き抜くための地震学』ちくま新書を参照)。
     

    千年前の地震が暗示するおそるべき未来

     地球科学では、地層に残された巨大津波の痕跡や、地震を記録した古文書を調べることで、日本が以前に大地動乱の時代であった9世紀に何が起きたかを、かなり明らかにしてきている。そこからわかってきたのは、東日本大震災は869年に東北地方で起きた貞観(じょうがん)地震と酷似しているということだ。これは何を意味しているのだろうか。

     貞観地震が起きた9年後の878年には、現在の首都圏に近い関東中央で大地震が起きた。相模・武蔵地震(関東諸国大地震)と呼ばれているもので、M7.4の直下型地震だった。
     さらに、その9年後には、東海・東南海・南海の連動型地震が発生している。887年の仁和(にんな)地震であり、その規模は東日本大震災と同じM9クラスの巨大地震で、大津波もともなっていた。
     
     こうした「9年後」と「さらに9年後」に起きた地震の事例を、21世紀にあてはめてみよう。
     東日本大震災が起きた2011年の9年後にあたる2020年、東京オリンピックが開催される年に、首都圏に近い関東中央で直下型地震が起きる。そしてさらに9年後の2029年すぎに、南海トラフ巨大地震が起こる――そういう計算になるのである。もちろん、この年号の通りに地震が起きるわけではない。しかし、9世紀日本の地震史からは、おそるべき未来の姿が現れてくることは確かなのだ。
     
     東日本大震災以降の日本列島は、千年ぶりの大変動期に突入した。南海トラフ巨大地震は高い確率で、2030年代に発生する。だが裏を返せば、この地震は日本人にとって、発生の時期が科学的に予想できるほとんど唯一の地震である。本稿で述べたような、いわば「虎の子」の情報を活用して、そのときに向けた準備を始めていただきたい。



    鎌田浩毅(かまた・ひろき)

    1955年、東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。専門は火山学・地球科学・科学コミュニケーション。テレビ・ラジオ・雑誌・書籍で科学を明快に解説し、啓発と教育に熱心な「科学の伝道師」。京大の講義は毎年数百人を集める人気で、教養科目1位の評価。モットーは「面白くて役に立つ教授」。
    科学書の著書に『富士山噴火』(ブルーバックス)、『火山噴火』(岩波新書)、『西日本大震災に備えよ』(PHP新書)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)、『地球は火山がつくった』(岩波ジュニア新書)、『地学のツボ』(ちくまプリマー新書)、『火山と地震の国に暮らす』(岩波書店)、『せまりくる天災とどう向きあうか』ミネルヴァ書房、『地震と火山』(学研)。
    ビジネス書の著書に『一生モノの超・自己啓発』(朝日新聞出版)、『一生モノの勉強法』『一生モノの時間術』『一生モノの人脈術』『座右の古典』『知的生産な生き方』(以上、東洋経済新報社)、『成功術 時間の戦略』『世界がわかる理系の名著』(以上、文春新書)、『ラクして成果が上がる理系的仕事術』『京大理系教授の伝える技術』(以上、PHP新書)、『一生モノの英語勉強法』『一生モノの英語練習帳』『一生モノの受験活用術』(以上、祥伝社新書)などがある。
    ホームページ:http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/~kamata/

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