祝「山の日」記念コラム後篇 あこがれの富士登山攻略法

  • 2016/08/11

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    祝「山の日」記念コラム後篇
    あこがれの富士登山攻略法

    「富士山に登りたい!」という希望をお持ちの登山者は多いことでしょう。日本の最高峰である富士山に登れるのは、年間で7月と8月の2ヵ月間だけですが、その間に、実に30万人もの人がこの山に挑みます。

    富士山には登山道や山小屋がよく整備されていますので、歩行の難易度は低い山です。怖いのは「高山病」で、登山前に高山病の知識を身につけて、対策を講じておく必要があります。
    ロングセラー『山に登る前に読む本』から科学的登山術のエッセンスをご紹介する「山の日」記念コラム後篇ではまず、この「高山病」にスポットライトを当てます。

    (タイトル写真提供:宮本俊幸/アフロ)

     

    高山病を防ぐには?

     

    富士山登山中の高山病は、どのあたりで発生するのでしょうか?
    多くの方は、七合目から八合目あたりで急に動悸がし、息が上がり、足が重くなった、と感じるようです。それらの症状の原因は、大気中に含まれる酸素量が減少するからですが、それが身体に影響を及ぼし始めるのが3200メートル前後で、富士山では七合目から八合目がちょうどその高さに相当します。

    この高さでは、低い山では「きつい」と感じられた程度のペースが、「非常にきつい」と感じられるようになります。登山の「きつさ」が、ワンランク上がるわけです。ちなみに、さらに高度が上がって、エベレストの山頂付近にまでいたると、かなり体力のある人でも要介護者相当の体力に落ちてしまいます。エベレストは極端としても、高山に登る場合は、日頃の登山よりもペースを落とすことを忘れてはいけません。

    高地では、汗をかきやすくなるという現象も起こります。これにはメリットとデメリットが両方ありますが、気をつけなければならないのは、高地では平地に比べて喉の渇きを感じにくくなる、ということです。汗をかきやすくなるということは、本来なら、平地と比べてより多くの水分補給が必要になるはずです。ところが、喉の渇きを感じないために、あまり水を飲まなくなります。やがて脱水量に水分摂取量が追いつかなくなり、体内が水分不足になって血液量が低下し、運動能力も低下する、という悪循環を招きます。

    こうした事態を避けるには、夕飯時になるべく多くの水分を摂取することです。暖かい部屋やテント内で食事を摂ると、血糖値が上がり、身体が温まります。そうなると、喉の渇きを感じやすくなります。就寝時も枕元に水筒を置いて、適宜水を飲むといいでしょう。

    高地に長く滞在していると、人間はその環境に馴れていきます。これを「高地馴化」といいます。しかし、高地に馴化するには、環境にもよりますが7日間程度が必要です。したがって、富士山のような短期登山では、高地に完全に馴化することはできません。

    ただし、ゆっくり登ることである程度順応することは可能です。富士山の場合でも、弾丸登山は絶対に避けるべきで、七合目くらいでできるだけ十分な休憩を取るといいでしょう。あるいは、七合目以上の高度ではゆっくりとしたペースに落とし、身体が少しでも高度に順応する時間を取るような登り方をすべきです。

     

    山 

     

     

     

    「登山体力」を向上させるトレーニングとは?

     

    登山で最も重要なのは「体力」です。

    体力がつけば、それだけ急な坂道でも短時間で上れるようになりますし、短時間で長距離を歩ければ、余分な食料も必要なくなり、荷物も軽くなります。荷物が軽ければ機動力が出ますし、変わりやすい山の天気を考えれば、すばやく行動できる、という点から安全性も高くなります。

    登山のための体力を向上させるトレーニングは、持久性トレーニングと筋力トレーニングに分かれます。持久性トレーニングは、ウォーキングやジョギング、テニス、水泳など、全身運動なら何でもかまいません。筋力トレーニングは、ダンベルやマシンなどを用いて行う運動です。しかし、ダンベルやマシンを用いた筋力トレーニングは、やってみると、なかなか継続しづらい、というのが現実のようです。

    継続しやすく、効果のあるトレーニングはないでしょうか。おすすめは、インターバル速歩トレーニングです。インターバル速歩トレーニングとは、3分間ずつ「速歩」と「ゆっくり歩き」を繰り返す歩行トレーニングです。1日の速歩の合計時間が15分以上になるようにし、週に4日以上実践します。誰にでもかんたんにできるトレーニング方法です。

    インターバル速歩トレーニングで主に鍛えられる筋肉は「大腿筋」です。中高年の場合、大腿筋の筋力が上昇すれば、それに比例して心肺機能が改善して、持久力も向上するというデータがあります。すなわち、筋力も持久力も向上するのです。その点からも、インターバル速歩トレーニングは効果的です。

    このトレーニングを5ヵ月間継続すれば、大腿筋力や最大酸素摂取量が10~20パーセント増加します。このことは、登山時間を短縮するだけでなく、登山時の乳酸産生を抑制し、グリコーゲンの消費を抑え、快適な登山をもたらします。実際、このインターバル速歩トレーニングを実践している方からは、「日帰りの登山しかできなかったのに、縦走(いったん下山せずに、そのまま次の山に向かうこと)ができるようになった」などの報告が届いています。

    一方、登山には特異的に使われる筋肉があります。また、坂道を荷物を持ってゆっくりと登ることから、足の筋肉の収縮リズムもほかの運動形態とは異なっています。そのため、登山特有のトレーニングを行うのも効果的です。近隣の、適当な低い山に登ってみるのがいいトレーニングになります。その場合、「ややきつい」と感じる速度で登ると効果が上がります。

    こうしたトレーニングの後に、「プロテイン」を摂取すると、筋力がより強くなります。市販のサプリメントのプロテインをわざわざ購入する必要はなく、牛乳やヨーグルトなどのタンパク質で十分です。牛乳だけでなく、クッキーやジャム、蜂蜜などと一緒に食べることで、糖質を同時に摂取するといいでしょう。

     

    『山に登る前に読む本』
    著:能勢博

    信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学講座教授。一九七九年、京都府立医科大学医学部医学科卒、京都府立医科大学助手、米イェール大学博士研究員、京都府立医科大学助教授などを経て現職。信州大学山岳科学総合研究所・高地医学・スポーツ科学部門長、常念岳診療所長などを歴任。一九八一年に中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダ・オーラ峰に医師として同行し、自らも登頂。著書に、『人は山をめざす』(オフィスエム)、『「歩き方を変える」だけで10歳若返る』(主婦と生活社)など。

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