ぼくたちはなぜぼくたちだけなのだろう

文 川端裕人

監修 海部陽介(国立科学博物館 人類史研究グループ長)

かつて地球上には、ぼくたちと同じ「人類」の仲間がたくさんいた。彼らはなぜ滅んでしまったのか?
なぜぼくたちだけが生き残ったのか?
人類進化のホットスポット、アジアの化石発掘現場から始まる壮大な謎解きの旅!

(画像提供:国立科学博物館)

第1回 発掘の現場から

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老若男女が一心不乱に

ジャワ島・サンブンマチャン村を流れるソロ川

 インドネシア・ジャワ島、ソロ川沿いの村、サンブンマチャン。
 川ぞいに、表土を取り除いて地層が剥き出しになった一角があり、その上に張った青いシートの日陰で、発掘作業を進めている。
 ぱっと見には、斜面を切り崩して平らにならした区画だ。切り崩した分、胸ほどの高さまでの地層が、垂直の壁のようになって露出している。また、平らになった地面には、2ヵ所、深く掘り進んだ穴、つまり、試掘坑がある。それぞれ、2メートル×3メートルくらいの長方形で、1メートルほど掘り下げている。 「壁」と、2つの穴。それぞれに人が配置されて、黙々と手を動かしている。それが、この日、ぼくがはじめて参加したサンブンマチャンでの発掘風景だった。
 作業開始は、朝の8時頃だったろうか。最初はさすがに涼しかったものの、一時間もたつと、すっかり気温が上がり汗をかいた。手を止めて顔をタオルで拭うたび、川が見えた。同時に、水面から立ち上る異臭が鼻をついた。
 ソロ川は、ジャワ島の中央部にあるラウ火山近くに発し、最東端のスラバヤ近くで海にそそぐ大河だが、地元の人々にしてみると生活河川だ。調査が行われていた9月は乾季で水量が少なく、どちらが下流か分からないほど流れは淀んでいた。あちこちに白い泡が立っており、決して衛生的には見えなかった。

2つの試掘坑で進められる発掘作業

 その一方で、臭いさえ気にしなければ、非常に絵になる光景でもある。くねくねと蛇行する狭い区間を、砂取りの平底船が長い竿で河床をついて行き来する様。河原の空き地で、子どもたちが遊ぶ様。それぞれ、「旅先で出会ったインドネシア」として、パソコンの壁紙にでもしておきたいくらいだ。
 しかし、目下のところぼくたちの関心は、川の衛生状態でも、景色でもない。
 作業に参加している総勢30名ほどの集団は、それぞれの持ち場で、ひたすら地層を見ている。ぼくを含めた三人の日本人を除けば、残りは全員がインドネシア人だ。その中には、国立の地質調査センターから派遣された発掘の専門家もいれば、作業のために雇われた地元の村人もいる。この付近は、ジャワ島でも有数の人類化石の産出地で、保存状態のよいジャワ原人の頭骨が、これまでにすでに3つも見つけられている。
 カンカンと、金属がぶつかる音が響く。地層を剥がすためにタガネや太い釘を打って、少しずつ穴を深くしたり、広げたりしていく。中には、もっと慎重に、地層から露出した細長いものの周りをきれいに取り除こうとしている若い村人もいる。何十万年もの間、地面の下に埋まっていたスイギュウかなにかの化石だ。地面からそのようなものが出てくること自体、どこか胸ときめくものがあるようで、若者は目を輝かせて一心不乱だ。
 少し離れたところでは、腰の曲がったおばあさんが、散らばった石をふるいにかけて、ひっかかったものを確認していた。ときどき、気になるものを見つけると、用意されていた容器の中に加えていく。それがまるで小さな金塊とでもいうようにていねいに扱い、やはり一心不乱だ。
 老若も性別も越えて、この作業はなにか人を惹きつけてやまない。

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文 川端裕人

かわばた・ひろと 1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ在職中に『クジラを捕って、考えた』を執筆、文筆デビュー。1997年よりフリーランス。小説作品に『銀河のワールドカップ』『星と半月の海』、ノンフィクション作品に『動物園にできること』など多数。最新刊は、一線の宇宙論研究者との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)、駆け出し声優のお仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙港(春夏篇・秋冬篇)』(早川書房)など。

メールマガジン「秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)を配信中。

連載一覧

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2017/06/20

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