さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く

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乳酸菌にも「お国柄」があった!

「plantarum(プランタラム)という名前が示すとおり、これは植物性の乳酸菌です。ザワークラウト、ピクルス、チーズ、ぬか漬け、キムチなど植物を原料とするいろいろな発酵食品から分離されますね。プロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物。いわゆる善玉菌)としての報告もあります。私たちは、石鎚黒茶と阿波晩茶のプランタラムを4年連続で採取し、その性質を分析しました」

その分析結果を下の図で見てみよう。菌の同定に使う16S rRNA遺伝子配列で調べると、両者は同じ菌だ。しかしさらに詳しく分析すると、栄養源として使える糖の種類に違いがあった(図6)。

図6 乳酸菌にも地域特性がある 同じプランタラムでも、石鎚黒茶と阿波晩茶では、棲んでいる乳酸菌が利用できる糖の種類が違う

 

「それぞれ、49種類の糖のうちどれを使えるか調べました。この図で黄色いのが使える糖、紫色が使えない糖。ご覧のとおり、石鎚黒茶のプランタラムには使えて、阿波晩茶のプランタラムには使えない糖があることがわかったんです。1993年頃に採取されたものも見ましたが、同じような結果でした。地域独自の乳酸菌が継続的に存在するのです」

差があったのは、使える糖の種類だけではない。堀江さんによると、一般的に植物性乳酸菌は腸管への付着性が低いそうだ。たとえその乳酸菌に免疫活性化や整腸作用などの機能があったとしても、腸管に付着しなければ飲んでも通り過ぎて出て行ってしまう。そして、阿波晩茶のプランタラムは腸管に付着する力がかなり弱かった。しかし石鎚黒茶のプランタラムは、腸管にくっつく力が強いことがわかったそうだ。碁石茶との比較研究はまだ実施していないとのことだが、やるじゃないか石鎚黒茶の乳酸菌!

「とりあえず四国の乳酸菌に地域特性があることはわかったので、さらにこの研究を進めていきたいと思います。土地ごとの地産乳酸菌を調べれば、どんな食品に使えるかを考えられるでしょう。そのためには、乳酸菌の持つさまざまな機能性の有無を見分けるマーカーを提案していきたいですね。抗肥満効果を見たいならこれ、抗アレルギー効果を見たいならこれ、という指標があれば、新しい乳酸菌を見つけた企業などに使ってもらえると思います。いまはまだ、集めた菌をどうしていいか迷っている企業もありますので。また、学術的な見地からも、日本や世界の各地にどんな乳酸菌があるのか興味深いところです」

たしかに、同じ四国の中でもこんなに違うのだから、日本国内だけでも相当な多様性があるのだろう。乳酸菌なんてどれも同じだと思っていたことを深く反省した。彼らも生き物なのだから、土地ごとにいろんな進化を遂げるのは当然だ。そこにはまだ、学術研究の広大なフロンティアが残されているのだった。

乳酸菌を「ダイ・ハード」にする意外な食べ物

さて、乳酸菌の地域性に関する研究と同時に、堀江さんはその乳酸菌を「いかにおなかに届けるか」という研究も進めている。石鎚黒茶のプランタラムは腸管への付着力が強いが、それ以前に胃を無事に通過しないと腸には届かない。しかし胃液は強い酸性だ。だからこそ細菌の感染を防げるわけだが、善玉菌は腸まで届けたい。だからこそ、胃で溶けずに腸で溶けるカプセルに乳酸菌を入れた商品も開発されている。

しかし堀さん は、それを食品を使ってやろうと考えた。乳酸菌を腸に届ける役目を果たすのは、なんと「こんにゃく」だ。微生物の探検に来て、まさかこんにゃくの話を聞くことになるとは。意外な展開である。

「たまたま岡山県の味噌屋さんとこんにゃく屋さんとお話をする機会があって、どちらも家庭内消費量が落ちていることもあり、新しい商品開発に積極的だったんです。発酵食品の味噌は乳酸菌が入っていますし、こんにゃくは低カロリーで整腸作用もあるので、一緒に何かできないかと考え、岡山県の『きらめき岡山創成ファンド』に応募して採択していただきました。県内の中小企業の研究開発や販路開拓を支援するためのファンドです」

味噌に含まれる乳酸菌も、やはり地産微生物である。そこでこの研究では、まず岡山県産の味噌から乳酸菌を分離し、その有用性を検討した。熟成期間の異なる数種類の味噌から分離して調べたところ、腸管への付着性が高かったのは、熟成期間の短い「若い味噌」から分離した「OK1501」と名付けられたプランタラムだった(図7)。ちなみに「OK」は「岡山」のことである。なんか、かっこいい。で、それをこんにゃくとどのようにコラボさせるのであろうか。

図7 岡山県産の味噌からとった乳酸菌の、腸管への付着性を比較した結果

 

「こんにゃくはコンニャクマンナンという繊維が絡み合った食品なので、そこに乳酸菌を染み込ませられると思いました。また、こんにゃくは強いアルカリ性ですから、胃酸と中和されることで乳酸菌へのダメージを減らせるでしょう。腸まで生きたまま乳酸菌を届けられる可能性があるわけです。そこで、まずは植物性乳酸菌ではなく、腸管に付着しやすいとされる市販の動物性乳酸菌をさまざまな直径のこんにゃくに染み込ませて、人工胃液に浸してみました。すると、こんにゃくなしではすぐに乳酸菌が全滅してしまうのですが、こんにゃくと一緒だと30分ぐらい生き延びたんです(図8)」

図8 動物性乳酸菌をこんにゃくに染み込ませると胃液への耐久力が上がった!

 

しかし食べた物は2~3時間ほど胃の中に滞在するので、30分では物足りない。堀江さんは、「こんにゃくの表面積を大きくして乳酸菌がからみやすくすればよいのではないか」と考えた。

こんにゃくの、表面積。

科学の研究は、人間に思いがけないことを考えさせるものである。しかし、どうすればこんにゃくの表面積が大きくなるのか、想像もつかない。

「製造工程で発泡させて、表面積の大きい『泡入りこんにゃく』をつくってもらいました(図9)。これに乳酸菌をからめて人工胃液に浸したところ、生き残る時間が2時間まで延びたんです(図10)。浸す前の10%程度まで減りはするのですが、一部でも生き残れば、腸管でまた増殖してくれますからね。全滅しないことが大事なんです」

図9 これが表面積を増大させた「泡入りこんにゃく」

 

図10 動物性乳酸菌を泡入りこんにゃくにからめると耐久力がさらに上がった!

 

ここまでは動物性乳酸菌を使う実験だったが、この結果を受けて、次は岡山産の植物性乳酸菌OK1501で同じ実験を実施。一般的には動物性乳酸菌のほうが胃酸に強いはずなのだが、OK1501はその名のとおり、じつに「OK」な結果を出してみせた。動物性乳酸菌の2時間後の生存率は約1割だったのに、こちらは2時間後でも6割近くが生存していたのである(図11)。やるじゃないか岡山の乳酸菌!

図11 植物性乳酸菌OK1501は動物性乳酸菌よりも強かった!

 

「ここまでの実験はうまくいって、技術も確立できたので、あとは製品化を待つばかりです。泡入りこんにゃくは真珠ぐらいの小さいサイズなので、こんにゃく会社としては、タピオカのように飲み物に入れて飲んでもらうことも考えているようですね」

タピオカのような、真珠大の乳酸菌入りこんにゃく。これは新しい。今回の探検で試食できなかったのが残念だ。いずれ商品化されて私たちの手元に届いたとき、この記事を読んだあなたは、ちょっとした蘊蓄を傾けて周囲の尊敬を得られることだろう。「このこんにゃく、泡を入れて表面積を広げてるんだぜ」と。いや、もちろん、真に尊敬されるべきはあなたではない。ひとつのテーマを考え抜いた挙げ句に、そんなことを思いついちゃう、研究者である。

取材協力:

 

堀江祐範(ほりえ・まさのり)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
生活環境制御研究グループ 主任研究員

健康工学研究部門では、「100歳を健康に生きるための技術開発」という大きなテーマの下、持続可能な社会の中で健康かつ安全・安心で質の高い生活の実現を目指しています。そのために、幅広い分野にまたがる知識や知見を結集・融合し、人間や生活環境についての科学的理解を深め、それに基づいて、人と適合性の高い製品や生活環境を創出するための研究開発を行っています。また、四国およびつくばに研究拠点を置き、地域の健康関連産業の活性化への貢献も推進しています。

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「さがせ、おもしろ研究! ブルーバックス探検隊が行く」は、ブルーバックス編集部が、最先端の研究を行っているさまざまな現場にお邪魔して、研究の今をリポートする連載企画です。

隔週木曜日に新しい記事を公開していく予定ですので、どうぞお楽しみに!

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